Nicotto Town



もうひとつの夏へ 【3】

受付には黒髪の女性の姿はなく、別の女性がいた。

栗色の短い髪、人当たりの良さそうな顔、一般的基準なら十分美人の範疇だ。

服装も振袖などではなくスーツを着ていた。

(これが普通だよな)

心の中でクスリと笑ってしまった。

「何かお困りですか?」

女性はにこやかに対応した。

「あの~00号室が消えてしまったんですが」

「00号室? そのような部屋は存在しておりませんが?」

「いやでも、振袖の受付の人が…」

にこやかだった受付の顔がガラリと変わった。

(は?何言ってんの?)

とでも言いたげな訝しげな表情でこちらを見ると

「本日は、ずっと私が受付ですが」

感情の無い冷淡な声で言ってのけた。

「は? いやでもさっきは振袖の人が…」

「だから、先ほども申し上げましたとおり!」

(何を言ってるんだよコイツ…)

とりあえず事情を話すが、どうにも要領を得ない。

さっきまで此処に居た振袖の人を呼ぶように何度も話したのだが、

そんな人は居ないとの一点張り。

押し問答の末、最後には

「ナンパでしたら、仕事中ですのでおやめください。 警備員を呼びますよ」

といわれる始末。

本当に警備員を呼びそうな雰囲気だったのでしかたなくビルを出ることにした。




ビルを出ると、真夏の日差しがすぐにジリジリと肌を焦がした。

そしていつもとは違う、かすかな違和感を感じた。

「あれ?」

ようやく違和感の正体に気付き、僕は目を疑った。

道路に人が溢れていたのだ。

ここの歩行者天国は3年も前に解除されているはずなのに…。

まるで時代を逆行してしまったようだった。

そういえば、どことなく行き交う人も、すこし時代からずれているように見えた。

「まさか…な」

直感的に、脳裏に閃くものがあった。

ありえないことだが、

こうもありえないことが続くとその可能性を否定する事が出来なかった。

直感の裏をとるべくコンビニへ急いだ。

コンビニの自動ドアがゆっくり開くのをこんなにもどかしく思ったことは今までなかった。

中へ入るとすぐに雑誌を手にし眺めた。

一目でわかる昔の雑誌だ。

どれも今では連載されていないものばかりが、そこには並んでいた。

(ということは、やはり…?)

次に新聞を見てみる、記事ではなく日付を…。

8年前の8月31日…。

どうやら僕はあの日に帰ってきてしまったらしい。

「よりによってこの日か」

夢か幻か? それとも壮大なドッキリなのか? もう訳がわからない。

それでもどこかに素直に受け入れている自分がいて、なんだか少しおかしかった。

(そうか二度目のあの夏…なら)

「やることは、ひとつしかないよな」

誰に言うでもなく、言葉をひとつ吐き出してコンビニを出ると

@ニフティ駅へと歩を進めていった。

当時は、判らなかった事だが、@ニフィティ駅は広大で非常に複雑に入り組んでいた。

まるでパラレルワールドのような駅だったのだ。

なんでこんなとこで待ち合わせなんかしたのか? 今では少し後悔している。

当時は頭が真っ白で、何も考えられなかったが今ならはっきりと判る。

確信があった。

きっと雪美は来なかったんじゃない。会えなかったのだと……。




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