■近代文藝之研究|研究|沙翁の墓に…(14)
- カテゴリ:その他
- 2011/08/23 23:18:29
■近代文藝之研究|研究|沙翁の墓に詣づるの記 五(3)
寺の門《もん》は、幾百年の菩提樹|道《みち》の兩側に列を正し枝をわたして、青葉の天蓋を引く。左右に、楡《にれ》の葉蔭ひろく塵も留めざる一面の墓地は、凡ていはゆるホーリー、ツリニチーの神領《しんりやう》である。その楡《にれ》の木隱《こがく》れから、遙かに尖塔《せんたふ》の頂《いたゞき》のみを示して、人をして想望の情に堪えざらしめた聖院《せいゐん》は、今は、菩提樹の若葉《わかば》香《かを》る穹道《きうだう》の奧に扉《とびら》を見《あら》はして來た。我より先に、遙か離れて行く小さい人影は、黒い外套と空色《そらいろ》の絹服《けんぷく》と、男女《なんによ》二人《ふたり》の後姿《うしろすがた》天國の門《もん》を叩きにでも行く人かと思はれる。
入口には黒き法衣《はふい》の僧がゐて、出入《しゆつにふ》を取締まり、入場料も取れば、案内記、繪葉書、紀念印紙の類も賣る。之れも寺の維持費と思へば故障はあるまい。
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*註1:道《みち》・穹道《きうだう》
「道」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
「穹道《きうだう》」は原本のルビは「きうどう」とあるが改めた。
*註2:青葉
「青」の正字体。「月」は「円」。
*註3:尖塔《せんたふ》
原本のルビは「せんとう」とあるが「せんたふ」に改めた。
*註4:想望の情
「望」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/bou.jpg
「情」の正字体。「月」は「円」。
*註5:聖院《せいゐん》
「聖」の旧字体。「王」が「壬」。
*註6:香《かを》る
原本のルビは「かほ」とあるが「かを」に改めた。
*註7:奧に扉《とびら》
「扉」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hi_tobira.jpg
*註8:黒い・黒き
「黒」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/koku_kuro.jpg
*註9:空色《そらいろ》
「空」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sora.jpg
*註10:絹服《けんぷく》
「服」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/huku.jpg
*註11:後姿《うしろすがた》
「姿」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/shi_sugata.jpg
*註12:僧がゐて
「僧」の旧字体。「曽」が「曾」。
*註13:案内記
「内」の旧字体。「冂(=エンガマエ)」+「入」。
*註14:紀念印紙
「紀」の俗字(か?)。「糸」+「已」。
*註15:故障
「障」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/syou_sawaru.jpg
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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1

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- 銀の堕天使@ゆう
- 2011/08/24 02:10
- お寺もうかるな入場料で
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