■近代文藝之研究|研究|沙翁の墓に…(8)
- カテゴリ:その他
- 2011/08/17 23:09:37
■近代文藝之研究|研究|沙翁の墓に詣づるの記 三(2)
あれがシヱークスピーア[#「ヱ」は小文字]の生まれた家といふ、其の前には成程多勢の人が入場《にふぢやう》を許されるのを待ち合わせてゐる。また此方《こちら》の軒下《のきした》には馬車の客待ちをしてゐるのもある。併し斯う見わたすと、さして長くもない通《とほり》ながら、何となくからんとして、人の往來《ゆきき》も少ない、如何にも田舎の小町といふ趣である。折しも空には薄雲が掛つて冷氣を含んだ風が町を吹き渡つて來た。何だか淋しいやうな悲しいやうな風情である。
想像して見ると、シヱークスピーア[#「ヱ」は小文字]がまだ腕白《わんぱく》盛りの頃は、例のグラムマー、スクールに通ふ朝夕の途《みち》すがら、弟と肩を組んで、此の邊を行きつ戻りつしたものであらう。そして年よりも老《ま》せた彼れは、十六七にもなると、もう一廉《ひとかど》の若《わか》い衆《しゆ》氣取りで、日本ならば湯歸りの手拭を肩に、つつかけ下駄か何かでそこらをそゝりあるく方《はう》であつたらう。いや彼れは案外におとなしい質《たち》で、朋輩からは若年寄といふやうな綽名《あだな》とも附けられてゐたかも知れぬ。
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*註1:其の前
「前」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zen_mae.jpg
*註2:成程
「程」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hodo_tei.jpg
*註3:入場《にふぢやう》
原本のルビは「にふじやう」とあるが「にふぢやう」に改めた。
*註4:長くもない通《とほり》・通ふ
「通」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註5:田舎
「舎」の旧字体。「人(ヒトカンムリ)」+「舌」。
*註6:空には
「空」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sora.jpg
*註7:風情
「情」の正字体。「月」は「円」。
*註8:グラムマー、スクール
「grammar school」のこと。イギリスにおいて、16世紀に創設されラテン語・ギリシャ語文法を教えることを目的とした学校。現在のイギリスでは、学力上位の生徒に大学進学準備の教育をする中等学校を意味する。
*註9:朝夕
「朝」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/chou_asa.jpg
*註10:途《みち》すがら
「途」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註11:戻り
「戻」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/modosu.jpg
*註12:一廉《ひとかど》
「廉」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ren_kado.jpg
原本のルビは「いつかど」とあるが「ひとかど」に改めた。
*註13:つつかけ
原本では「つっかけ」とあるが「つつかけ」に改めた。
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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1

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- 銀の堕天使@ゆう
- 2011/08/18 01:38
- あだな。どんなんだろう
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