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■近代文藝之研究|研究|沙翁の墓に…(5)

■近代文藝之研究|研究|沙翁の墓に詣づるの記 二(2)

ロンドンに出でしより後のシヱークスピーア[#「ヱ」は小文字]、殊にも其の著作ありてより後の彼れは、千の傳記、百の考證よりも、彼れみづからの書こそ最も明白に之れを傳へて居る。『ハムレット』『マクベス』の著者は『ハムレット』『マクベス』の著者として天日《てんじつ》の輝くが如く遍く後昆《こうこん》を照らしてゐる。之れに想像を加へんには既に余りに煌々《くわう/\》たるに過ぐるであらう。唯我が最も想ふは、スツラッフォード、オン、エヴンの一青年たりしウヰリアム[#「ヰ」は小文字]、が身の上である。
斯やうな思ひ出に導かれて、我が始めてスツラッフォード、オン、エヴンの土地を踏みしは過ぐる年の春、某月某日であつた。オックスフォードから汽車で二時間が程、巴旦杏《はたんきやう》の花の暖に赤い家|幾《いく》つかを過ぎて、停車場《ていしやば》近《ちか》く來れば、かしこに見える一|群《むれ》の樹立《こだち》が、早やホーリー、ツリニチーの森といふに、何となく心ときめく、繁みの色はまだ調《とゝの》はぬながらの蒼さ、中央から肅然《しゆくぜん》として立ち上《あが》つたる尖塔《せんとう》は、げにも默して天をさす指の如く、其の深い意義をば、唯感涙あるものが測り得やう。



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*註1:著作・著者
「著」の正字体。(↓見本文字のクサカンムリが「十」+「十」なのが正字)
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tyo_arawasu.jpg
「者」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mono.jpg

*註2:百の考證
原本では「白の考證」とあるが誤植と思われるので改めた。

*註3:傳へて居る。
原本には句点「。」がないが、前後の文脈から付け加えた。

*註4:遍く
「遍」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hen_amaneku.jpg

*註5:既に
「既」の正字体。「白」+「ヒ」+「旡」。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sudeni.jpg

*註6:青年
「青」の正字体。「月」は「円」。

*註7:導かれ
「導」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註8:過ぐる・過ぎて
「過」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註9:二時間が程
「程」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hodo_tei.jpg

*註10:巴旦杏《はたんきやう》
原本のルビは「はたんきよう」とあるが「はたんきやう」に改めた。
巴旦杏は、本来はスモモの一種だが、アーモンドの別名としても用いられる。ここではアーモンドの花の意と思われる。アーモンドはサクラ属の植物で桃の花に似る。
[参照HP]⇒http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/9/92/Almond_blossom02_aug_2007.jpg

*註11:花の暖
「暖」の旧字体。「日」+「爰」。

*註12:調《とゝの》はぬ
「調」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/cyou_shiraberu.jpg

*註13:感涙
「涙」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/rui_namida.jpg

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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1

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2011/08/15 08:09
冷えない汗だくで起きたよ^^



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