Nicotto Town


天使の棲む街


夏花火【3】


前後編の予定でしたが、文字数の関係で2回で終われなかったので
完結編(予定)です。

【第1話】
http://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=211960&aid=30282594
【第2話】
http://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=211960&aid=31066657

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しんと静まり返った波打ち際は水を打ったよう…というか波音しか聞こえない。
さっきまでツボに入ったように笑っていた美代子は今は打って変わって
唇を微笑の形に作り上げ何もかも見透かしてるような目で俺の顔を見つめていた。
…ええと、こいつはこういう奴だったっけ?
形勢逆転とはこういう事なのだろうか?
不意打ちを食らって面食らった俺は何故かひどくうろたえて言葉に詰まった。

確かに”話し掛け”はしなかったが、そんな事をした記憶はあった。
どうしてそんな事をしたかは分からない。
ただ、あんな顔で佇む奴を放っておけなかったのだろう。
でもまさか向こうが覚えているとは思わなかった。

「私ね、こんな性格だし元々友達も多くなかったから…」
こんな自分なんかの事を気に掛けてくれる人がいた事がすごく嬉しかったんだよ
そんな事を言ってかすかに首をかしげ微笑んだ美代子の肩から
柔らかなウェーブがかった髪の束がサラサラと零れ落ちた。
ええと…こういう時ってどうすりゃいいんだ?
ドラマや映画なんかじゃこういう時はやっぱり…そういう流れになるべきなのか?
頭の中でどういう行動を取るべきか迷って、
思い切って美夜子の肩に手を掛けた…その時。

-ドーン-

俺の背後から絶妙なタイミングで打ち上げ花火の音と光が降り注いだ。

そんなに近くではないみたいだけれど、
割とハッキリ見えるあたり隣町の盆踊り大会の花火だろうか?
そういや毎年この日に隣町でやっていた気もする。

「自分の町じゃない盆踊り大会って何だか不思議な世界の入り口ぽく感じない?」
「そうか?」
花火を見上げながら美代子が唐突にそんな事をつぶやいた。
「もしかしたら、ここに集まって踊っている人達はこの世の人じゃなくて黄泉の国から来た人達なんじゃないか?って思わない?」
う~ん…さすが、元読書好き根暗女。やっぱり発想が少しズレてる。
とりあえず俺からさほど賛同を得られないと感じ取ったのか、
それ以上盆踊りについての談義が続く事なく終了した。

しばらく2人で空に咲く大輪の花に目を向けていたが、
盆踊り大会の余興程度の花火はほんの数分で終了し、波打ち際には静寂が戻ってきた。

「そう言えば…結局の所どうだったんだよ?」
「何が?」
いや、だから…。お前、分かって言ってるだろ!!
「あ~、どうだろね?まあ、内緒って事で」
そう言って綺麗に結んだ唇の前で人差し指を立てたお決まりのポーズを取る。
「まあ、いいけどさ…」
「あんまり良くないけどね。そんな噂立てられたらもう地元じゃ結婚できないよ」
その台詞は意外だった。

「お前はこの町が嫌いだから出て行ったと思ってたけど」
「家は居心地悪くてあまり好きじゃなかったけれど、この町自体は嫌いじゃないよ」
両親の離婚でこの町に引っ越してきた美代子の母親は
数年前に再婚したとお袋達が井戸端会議で話していたのをふと思い出していた。

「んじゃ、まあ…次の同窓会までに結婚できていなかったら俺がもらってやろうか?」
「え~?次のって10年以上先じゃないの?」
かれこれ30分以上も一緒に花火をしていたせいか
いつしかこんな砕けた会話が口をついて出てくるようになっていた。
「いや、だから行き遅れてたら貰ってやるって話だよ」
順当に行けば、恐らく次の同窓会は女子の厄年である12,3年程後になるだろう。
「なにそれ~ひど~い。行き遅れるの確定?」
頬を膨らませて怒ったような素振りを見せてはいたが
本気で怒っていないのは見て取れた。
こういう話し方もする奴だったんだ。

「いや、だからそうならないように向こうで頑張ればいいだろう」
そうならなかったらならないで、寂しいような気もするけれど
でも恐らく美夜子は向こうできっと恋をするだろう。
それならそれで彼女にとって幸せな事だと思うんだ。

「とりあえず、誕生日当日に祝ってくれないような奴とは付き合うなよ」
「え?知ってたの…?今日が私の…って」
まあ、覚えたくて覚えてたわけじゃないが、
お盆や終戦記念日に挟まれて地味に忘れられるような日だから
却って印象に残ってただけだけどな…。
そう言い訳した俺の言葉はどう解釈されたのかは知らない。

ただ、コンビニで買い込んだ花火を全て灰にした後
大通りで拾ったタクシーで帰る美夜子を見送った時に言われた一言が
今でも気になっている。

「花火、ありがとう。上手くはぐれられて正解だったね」
そう言えば最終的にはぐれる原因になったのは、
確か美夜子が靴擦れが痛いと言っていたからだった気がする。
あれは…故意だったのだろうか?それとも偶然?

とりあえず次回同窓会までの課題としておくのもいいだろう。

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2011/08/16 12:34
>サビ猫様

ここまでお付き合いいただきありがとうございます。
拙い文章でお恥かしい限りですが、
少しは世界観とかが伝わっていたら幸いです。

ちょうど私が去年厄年の方wの同窓会が自分の誕生日にあったので
こういう設定で書いてみました。
でも誰一人として誕生日に触れてくれる人もおらず
こんなちょっとしたロマンスがあったわけでもないので
お誕生日を覚えていてくれた
同級生っていうシチュエーションが書けて楽しかったです♪

こういうのはご感想いただけるのが何よりも嬉しいので本当に感謝です。
最後までお付き合いくださりありがとうございましたヽ(´-`)ノ
アバター
2011/08/15 00:51
テーマが文学的ですね~^^
花火が効果的に使われててすごく素敵でした♪
アバター
2011/08/15 00:49
うぅ…ヒロインの誕生日(8/14)に合わせるべく書いていたのに
結局当日に間に合わなかった(ノд`)
ヒロインの誕生日をくりすと同じ日にしたのは別に自分に重ねたかったわけではなく
8/14っていう微妙な誕生日生まれの悲哀をちょっとだけ出したかった為です^^;

しかし本当はもっと恋愛要素薄い淡々としたストーリー予定だったのですが
間が空いたせいか何かおかしな事に…あれれ?
もっと煮え切らない感じで好きか嫌いかも全く不明なまま
お前ら結局なんだったんだよ!!(ノ゜д゜)ノ┻┻
っていうストーリーにしたかったの本当は(/ω\)

しかし結局3話に纏めたにも関わらず、
またも字数が足りなくて何か消化不良で本当すみません…(´;ω;`)
もっと簡潔に文章書く能力を身につけなくては…。

このような拙い文章ですが読んで頂いた方には心から感謝です♪



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