■近代文藝之研究|研究|イブセンの解決劇(26)
- カテゴリ:その他
- 2011/08/09 22:19:14
■近代文藝之研究|研究|イブセンの解決劇 (26)
此の作が殆ど屋外を舞臺とする如く、作の調子はいかにも盛夏の海濱の強い花やかな光線に滿ちた趣である。隨つて夫の憂欝な神秘な北海の標象から見れば、舞臺が明るすぎる感がする。さればこそイブセンは必要の場合に夜や夕暮を多く使つた。しかも尚それが夏の夜であるから明るく花やかだ。暗い方を主にして見れば、是れもたしかに缺點の一つであらう。今若し單に明るい方のみから見れば、此の劇は、イブセンの作中で最も色彩に富んだものゝ一つである。終りの方の過度な理窟の刄渡りや解決を忘れて見れば、却つてそこに美しい一幅の畫が見られる。收場に於けるバレステッドの言ひ草ではないが、海の人魚は陸に上つて死ぬる。人間の人魚は風土に化して行く。どちらも繪である。(明治四十一年四月)
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*註1:調子
「調」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/cyou_shiraberu.jpg
*註2:海濱・北海・海の人魚
「海」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kai_umi.jpg
*註3:強い
「強」の俗字。旁が「口」+「虫」。
*註4:憂欝
「欝」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/utsu.jpg
(補足)「鬱」は正字体、「欝」は略字体。
*註5:神秘
「神」の旧字体。扁の「ネ」が「示」。
*註6:必要
「要」の俗字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/you.jpg
*註7:しかも尚
「尚」の旧字体。「ナオガシラ」は「小」。
*註8:暗い
「暗」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/an_kurai.jpg
*註9:色彩
「彩」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sai_irodori.jpg
*註10:終り
「終」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/owaru.jpg
*註11:刄渡り
「刄」は「刃」の俗字体だが、原本の「は」は「刄」とも「刃」とも異る字体となっている。参考までに下記に原本該当文字を掲載しておく。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/cf_hawatari.jpg
*註12:一幅の畫
「畫」の俗字体(一説に本字とも)。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ga_kaku.jpg
*註13:明治四十一年四月
西暦1908年。抱月37歳。抱月の英独留学からの帰朝は1905年(明治38年)。翌1906年、抱月主導の第二次『早稲田文学』再刊開始、『文芸協会』発足。1907年(明治40年)、英文科教務主任就任。この年から自然主義文学に関する評論活動が活発となる。1908年(明治41年)のこの『イブセンの解決劇』は、その自然主義文学評論活動のピーク時のもので、1909年(明治42年)の『文芸協会演劇研究所』開設・指導あたりから、演劇の実践に活動の重点が移動してゆく。
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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1
阿曇氏ってしってますか?
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%98%BF%E6%9B%87%E6%B0%8F