時期外れの七夕小説(3)
- カテゴリ:自作小説
- 2011/08/09 02:11:20
「それは……手跡(て)を見れば……」
手跡?自慢じゃないが、俺の字は読みやすいだけが取り柄で、人に覚えられるほど印象的なものではない。
「そんな、一目見て判るような癖はないはずなんだけどなあ……」
「そりゃ、毎日見ていれば……」
こちらを見ていた顔がふと逸らされる。七日夜の月明かりは、それだけで彼女の表情を隠してしまう。
「毎日?」
「手本帳をくれたでしょ?ご自分で書いたのを」
そんな事もあった……だろうか?
それにしても。
「あるかないかも自分では判らないような癖を覚えてしまうほど?」
小さな髷を結った頭が頷く。
「……どうして?」
「そんな事、女の口から言わせるおつもりですか?」
「うーん……その辺の機微が解らないあたりが、未だに独り者な理由だと思う」
甲斐性がない、というのも大いにあるとは思うが。
「解ってて人に言わせようとするのがいけないのかもしれませんよ?……こんな人だと解っていれば……」
解っていれば、どうだったというのだろう?
あんな事は書かなかった、だろうか?それとも……
彼女がかつての向学心に燃えた少女ではないように、俺も昔のような……何だろう?とにかく、昔の俺ではない。
暗がりの方を向いているので、彼女がどんな表情をしているのかわからない。
「失望、しました?」
「……どうでしょうか?でも、思い出せていただけて良かった。半年も音沙汰がなかったので、もしかしたら私の勘違いだったかしら、と思いかけていました」
暗がりに向けていた顔を体ごとこちらに向けて微笑む。
「今更『約束を果たせ』とは申しませんから、ご安心なさって」
彼女の方から話を畳もうとしている。
自分の方から謎かけをしてきたのに。
「息災でいらっしゃると判って安心いたしました。では……」
軽く頭を下げて踵を返す。
「待ってください」
向こうへ行きかけた動作が止まる。でも、顔は向こうを向いたままだ。
「また……会っていただけますか?」
「お互いの居所がわかっているのですもの。会おうと思えばいくらでも会えますわ」
背中を向けたままそう答える。
まっすぐに伸びた背中が美しい。
人に頼って、人に守られて生きて来た女のそれとは違う背中。
「会うのを妨げるようなひとはいませんし。……私の方には」
翻って自分の体たらくを思う。
どの面下げて『また会いたい』などと言えるのか。
「では……来年の今日、同じ場所で」
「楽しみにお待ちしていますわ」
彼女はそのまま、一度も振り返らずに去ってしまった。
あの背中にふさわしい、とまでは言わない。
かつての少女を失望させない男にならなくてはいけない。
来年の七夕までには。
そうか、中国か~。しかも、纏足の風習まで。勉強されてますね~^^
纏足って聞いただけで、痛いイメージがつきまといます。実際、かなりの苦痛だったようですし。
現代でも、まだこういった、苦痛のある風習って根強く残っているんですよね。
なくなってほしいです^^;
私てっきり、昭和初期くらいの日本なのかな~って思ったんですよ。
パっと映像に浮かんだのが、なぜか日本だったっていう。
ああ~、だから鄭さん!
何の疑問もなく日本人だと思い込んでました。
すんげ~うっかりな人。こんな名字の人、日本人の訳ないっちゅうの。^^;
纏足、入れた方が良いかもしれないですね~。
私みたいなうっかりさんが居るかも。
居ないって? え?www
纏足は、辛亥革命(1911年~1912年)以降からやらなくなって来たみたいですね。
例のごとく、wiki先生に聞いて来ました。
17世紀のヨーロッパも、バレエが流行ったせいで小さい靴を無理矢理履いてたみたいですよ。
…痛いっちゅ~の。^^;
実はこれ、場所は中国のどこか地方都市で、時代は、近代以前のどこか、という漠然としたものなんです……
(2)に出てくる鄭家の親子は、纏足、してます。
でも、ヒロインの彼女は纏足してません。そのこともあっての『頼らない背中』なんです。
面白かったです!^^
待った甲斐がありますよ~。純文学ですね~♪^^
墨作り職人のお父さんのシーン、めっちゃ食い付きました、私。 (^m^*)
ケーブルTVでたまたま墨作りのドキュメントを見たことがあったんですよ。
それ思い出しましたよ。
すごい手間暇掛けて作って、高値が付いても、使わなきゃ意味が無いってその番組の職人さんも
言ってました。
う~ん、職人ってかっこいい♪
こういう職人の話に弱いのです。www
来年の七夕までにちゃんと良い墨持ってってあげて下さいよ、主人公。www
この小説の時代って、いつ頃の設定です?
私は大正末期から昭和初期くらいかな~って思ったんですけど、合ってます? 自身が無い。^^;
(1)~(3)まで拝読させて頂きました┏○))ペコ
物凄く美味しかったです!
抹茶の味が致しました。この小説からは抹茶の香りがします(* >ω< *) とてもいい香りです@@
この2人が来年、どうなるか気になりますね〜。
シンプルなのに分かり易い文章で素敵です。こういう書き方憧れてるんです。
素敵な作品有難う御座いました♫
さすが、まぷこさんですね! いつもながら端正な文章とまっすぐな視線が、清々しい作品です。
なぜか、これ読んで「たけくらべ」を思い出しました。
純愛っていつの時代ももどかしいですね。でも、すぐに抱きつかないところに、人はロマンを感じるのかもしれません^^
それにしてもこの娘、なんと姿勢の良い事か。男は彼女を見て自分のあり様を映して気づく。
高尚な雰囲気すら漂う良作でした。
この作品、好きだなあw
まぶこさまの博識に、いつもながら感嘆です。
また、読みに参ります。
1年目↓
http://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=2002&aid=4367050
2年目↓
http://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=2002&aid=15899646
しかも七夕当日から遅れる事遅れる事……
来年用のネタ、今から考えとかないといけないかなあ……(何も毎年七夕に小説をUPするって義務はないんだけどね)
なんか……幸せになってほしいなあ……。と思いました。
もう一度伺います。