■近代文藝之研究|研究|イブセンの解決劇(23)
- カテゴリ:その他
- 2011/08/06 23:48:26
■近代文藝之研究|研究|イブセンの解決劇 (23)
畢竟海から打ち上げられた人魚の如く、一たび相對有限の普通道徳に縛られゝば縛られるほど反撥して無限の廣大、絶對の自由に還りたくなる。此時之れを救ふの道は、潔く其の縛を切り放つにある。所謂自由である解放である。放つて絶對無限の大自由に入らすれば、責任は其の放たれたものの上にかゝる。おのづからの結果として、他制的でなく自制的な道徳が内から發する。而して落ちつく所は始めの制縛的道徳と大差もないが、味が丸で違ふ。一は盲從屈抑の踏襲律であり、他は復活し新生した自産律である。
斯んな風に見るのが先づ最も抽象的な解釋であるが、更に今一歩具象的に見れば、其のいはゆる「意志よりも強いもの」即ち愛の解決とも取れる。一旦解脱し解放せられた男女が、依然として相對存在を保たんとするには、獨り愛の力にたよらざるを得ぬ。愛は最後の救ひであり解決である。といふ風に見るのがそれである。兎に角此等のいづれとするも、これだけの解決は明に作中の事柄に現はされて事柄の終結はやがて意義の終結である。あとに其の以上の解決を考へさすといふ趣は殘らぬ。光明的たり、理想的たり、解決的たる所以はそこにある。イブセン劇として慥に一種特殊のものといつてよい。
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*註1:畢竟海から
原本では文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。
「竟」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kyou_tsuini.jpg
「海」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kai_umi.jpg
*註2:普通
「通」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註3:道徳・救ふの道
「道」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
「徳」「徳」の旧字体。「心」の上に「一」が入る。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/toku.jpg
*註4:還沒・還り
「還」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註5:所謂・落ちつく所・所以
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg
*註6:絶對無限
「絶」の正字体。旁の「色」が「刀」+「巴」。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zetsu.jpg
*註7:内から
「内」の旧字体。「冂(=エンガマエ)」+「入」。
*註8:自産律
「産」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/san_umu.jpg
*註9:更に
「更」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sara.jpg
*註10:強い
「強」の俗字。旁が「口」+「虫」。
*註11:終結
「終」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/owaru.jpg
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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1

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- 銀の堕天使@ゆう
- 2011/08/06 23:51
- 暑いからビール飲んだら寝て今起きました^^
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