Nicotto Town



【お題小説】海~夏の海にて~

照りつけるような夏の日差しがアスファルトを容赦なく焼いている。
海岸沿いの緩やかな坂道を自転車をこぐ俺の体は厳しい日差しと照り返しによる熱ですでに汗でいっぱいだ。

『あちぃ・・・』

朝から何度も口から漏れる言葉だか、言わずにはいられない。
車もあまり通らないこの道に陽炎が立ち上り、むせ返すような暑さに拍車をかける。

坂道をママチャリで登るのはそろそろ卒業したいのでお袋にバイクの免許について打診をしたところ
『高校卒業まではダメ』
と言われた。今、乗らないでいつ乗るんだと抗議したが
『もし、黙って免許なんか取ったら今後夕飯は無いと思いなさい』
という母親の絶対権力を行使されたので俺はしかたなくママチャリをこぐ毎日を送っている。

小学生の妹であるカオリが、新しい自転車が欲しいと一緒になってわめいていたっけ。

通学路と反対方向であるこの坂道を登りきると、少し高台になった場所から海が一望できる。
観光名所でもなんでもなく、まさに地元の海というもので味気もそっけもないが俺はここの景色が好きだ。
特に日差しを反射した水面が一面にきらめいている夏のこの時期が良いと思う。

景色がいいのにあまり人が来ないのは、裏にある石の塔が連立している場所のせいだと思う。
つまり、墓地があるのだ。
ウチを含めて近所の人たちの先祖代々からの墓がある。
俺としては我が家の墓地なのでなんとも思わないのだが、他人からしたら気分のいいものでは無いだろう。

~あら?今日も来たの?~

気がつくと、隣に綺麗なお姉さんが立っている。白のワンピースに白い肌であり暑さを感じさせない爽やかさがある。
そして、少しばかり透けている。

『やぁ、リョウコさん』
リョウコさんは俺を見て、クスっと可愛らしい笑顔をみせた。
~また、後でね~
と、言って光の中に消えていった。

そう、リョウコさんはこの墓地に住む幽霊であり、ご近所のご先祖様の一人である。
~よぉ!坊主、元気でやってるか?~
ねじり鉢巻をして、いつも酒をもっているジロウさんだ。この人も気さくに声を掛けてくれる一人だ。
そしてやっぱり幽霊だ。
言っておくが、俺には霊感は全く無い。でもなぜかここの墓地にいる人たちだけとは話ができる。

最初は、それはもうびっくりしたものだ。しかし、ここにいる人たちは皆、気さくに声をかけてくるので怖さという感覚がなくなってしまった。
幽霊で気さくっていうのも良くわからないんだがね。
この墓地にずっといるという事は、俗にいう自縛霊というヤツで成仏できてないんだと思われるのだが、なぜか妙に明るい人たちばかりなのだ。

そんなわけで、俺もここに来た時は色々な人と話して海をみている事が多い。
暑い中、墓地まで自転車をこいでくるのはここの人たちと話す楽しみがあるのかもしれない。
入れ替わり、立ち代りくる誰かのご先祖の幽霊さん達と夕方まで話すことがよくある。
これって高校生としてどうかと思わんでもないんだけどな。

でも、俺って何時からこの人たちと話せるようになったんだろう。
そこらあたりがちょっとあやふやで記憶がしっかりしていない。気がついたら話せるようになっていたんだ。
これも、ご先祖孝行という事で自分を納得させている。
日が傾いてきたので、そろそろ戻るとしようか。





『ただ今、母さん。今年は旦那は置いてきたわ。リナと二人でやっかいになるわね』
『おかえり、カオリ。暑い中ご苦労さんだね。今年はゆっくりしていけるのかい?リナ!大きくなったね~あれ?いくつになったんだっけ?』
『母さん、もう小学3年生よ』
『あら、そうかい。やだね~おばあちゃんになるわけだ』

毎年、この時期は実家に帰るようにしている。今年は旦那が仕事で休みが取れなかったので娘と二人での帰省だ。
『母さん、先にリナと一緒に行ってくるわ』
リナの手を引いて、海岸沿いの揺るかな坂道を登っていく。

『ねぇママ、この道はお墓に行く道だよね?』
リナがニコニコしながら聞いてきた。毎年の事なのでもう道を覚えたようだ。
『そうよ。おうちのお墓があるのよ』
『だれが入ってるの?』
『リナのおじいちゃんのお父さんのその又上のお父さんがいるのよ』
『お父さんだけ?』
『ううん、リナからしたら叔父さん。ママのお兄さんもいるわ』

私が小学生の時、兄はこの道で無免許でバイクに乗り単独事故を起こした。
滑って横転し、壁に激突してそのまま帰らぬ人となった。まだ17歳だった。
暑いこの時期が兄の命日である。

お墓参りをすませて海を眺めた。日差しが水面に反射している。
『キラキラして綺麗ね。リナ』
『うん。お兄ちゃんも嬉しそうだよ』
リナはそういってこちらに笑顔を見せた。
何の事だかわからなかったがあえて聞かない事にした。

『さぁ、早く帰ってアイスをたべようか』
リナの手を引いて緩やかな坂道を下っていった。
どこかで若い男の子の笑い声が聞こえたような気がした。

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2011/08/19 21:36
 最後にリナさんが話されていたのは、冒頭でバイクがほしいと言っていたお兄さんですね。彼にも幽霊が見えていましたが、見えるようになった時期が明言されていない点に色々と想像力を掻き立てられました。普通に考えれば思い出せないくらい昔から見えていたと思われるのですが、もし、最近のことなのに思い出せないとしたら、死が迫っていたから幽霊が見えていたのかな、などと考えてしまいました。
 そんな私の想像はさておき、お兄さんは死後も楽しく過ごしているようで、清涼感のある結末だったと思います。
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2011/08/02 19:01
限られた文字数の中で、時間の経過が鮮やかに描写された素敵なお話でした。

夏は思い出をたくさん作れる分、それらを思い出す季節でもあるのかな、と思いました。
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2011/07/31 23:53
久々の小説ですね。
大丈夫。ジーナのことを忘れてなんかおりませんよ!

精神病棟にいる方たちは、自分達側が「普通」で、
病院の外にいる人たちを見ては「どうしてこちら側にこないんだろうか」と疑問に思う、
と言うお話を思い出しました。
人間は自分の属している側が、「自分の思う正しい方」と思ってしまいがち。

お兄さんは間違っているけれども、
楽しげなので間違いを正してしまうのは、何か悪い気がしますね。
いつか知る日が来るのだとしたら、切ないですね。
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2011/07/31 13:12
皆様、コメントありがとう
久々の小説を書いてみました。
いや~、やっぱり難しいねw

ジーナ(長編小説)の方も滞っておりましてすんません。
もう、すっかり内容を忘れてる方も多いし
『え?なにそれ?』という方もいるんでしょうなw

とりあえず、がんばってそろそろ~と書いていこうと思います~~。
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2011/07/30 22:03
にいさま、そんけ~ww
とおっても読みやすかった^^

はじめは『俺』目線なのに、いつのまにか妹目線になってる~。
それも不自然な感じはみじんもなく。

すずのにいさまは、バイクで事故らないでね^^
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2011/07/30 22:02
だ~か~ら~か~~~!!!
しゅーひさんのブログって、面白いなぁって思ってたら、
こんな「文才」があったんですね!!
ビツクリです~~~(@0@;;;)

それにしても・・・
ちょっと、こわ~ぃお話ですね。
リナちゃんも、見えたってことは・・・(><)
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2011/07/30 21:51
小説家でしたか~( ,,・`ё´・)売れる前にサインをくだされ~♪
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2011/07/30 16:44
映画のシックスセンスを思い出しますね✲(๑◕ܫ←๑)ღ

夏の小説ですね。
怖いはずなのになんだかさわやかさを感じるのは何故でしょう。
しゅーひさんの人柄が出ている小説だからでしょうか?w
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2011/07/30 14:59
途中から俺って実は死んでるんじゃないの??と思いながら読んでました。。
やっぱり~
俺も幽霊だから幽霊さんとお話できてたんですね。
気付いてない・・・ということなのかな;;
リナちゃんには見えてるんだ・・・。

しゅーひさんらしいところがたくさんあってとても面白かったです^^
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2011/07/30 09:51
途中で主人公がすりかわって ア・アレ?ってかんじで何度もそこいらをうろつきました。
普通、幽霊というのは何かこの世に未練があって、
その感情が強すぎて成仏できないということになってますが、
ここに出てくる幽霊たちは皆いい人で、幽霊ライフも悪くなさそうですね^^
面白かったです♪
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2011/07/30 03:10
にゃう、明るいのに、きつい。
とっても軽やかにお話が語られているのに、それに反して重い内容に、却ってここから立ち去れなくなってしまうかんじ?
でも、みんなが誰のことを恨むでなく、納得してあの世に行ったとしたら、こんなに明るい幽霊さんがたとお近づきになれるのかもなあ。
ただし、明るいみなさま方が仲間を集めようと事故を起こしたのだとしたら・・・これはまたものすごく恐ろしいストーリーにもなっちゃうねえ。
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2011/07/30 00:53
まさかバイク事故で主人公が亡くなっていたとは・・・でも、笑顔で同じ海を見ていた姿を思い描き、切なさ以上にとても爽やかな気持ちになりました。
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2011/07/30 00:19
おつかれさまでした。短編で 時間の経過が上手に描かれていて
登場人物が 途中 急に入れ替わるところとか
最近読んでいない 江國香織さんの小説を思い出しました。
彼女の小説は なんとも形容し難い感じが残る作品が多いというか
ノドに骨が刺さって取れない感じのようなんだけど(そこが彼女らしいんですがw)

しゅーひさんの作品は ずっとユーレイ登場してるのに
最後まで レモネードみたいに爽やかだなぁ、って。
とてもキラキラ綺麗な景色の中で 大事なことを思い出せないまま 
ずっと佇んでいる それがユーレイの彼の救いかもしれない。
しかも 日が傾いたから戻るって ユーレイなのに 夜にはそこにいない…
死んだ、という自覚がない感じが良く表現されてると思いました。

真夏のジリジリと熱を帯び 朦朧とした世界って
ちょっと異世界を思わせるところがあって
真夏の夜よりずっと あちらの世界とリンクしやすい気がする。

逃げ水みたいに
そこに居るようでいて、いない。
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2011/07/29 23:42
海が見える高台の墓地に立っている自分を思い描けちゃいました。
死んだ人と話が出来るってのは怖いことだけど
ココの話はほのぼのしてて、誰でもそこに行けばあたたかく迎え入れてもらえそう
そんな感じがしました^^

サチの感想文でした。。。異常 。。。。。。。。。間違えた!以上!
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2011/07/29 23:25
海、家族愛が目に浮かぶような優しいムードが素敵です。
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2011/07/29 21:41
一瞬、夏目君かと思いましたがw
そういう落ちだったのねーw
夏らしい短編で楽しめましたw
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2011/07/29 18:45
一回戻って読み返しちゃった^^;そういう事かーってw
怖い話は苦手だけど、このお話なら、大丈夫でした☆彡
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2011/07/29 17:19
文才あったのね~

面白かったです(*^_^*)
アバター
2011/07/29 17:15
カオリ視点に切り替わった辺りから
リアルに鳥肌が立ってしまったじゃないですか…!

しゅーひ参謀長官はこんなスキルも持ち合わせていたのですね。
先生の次回作にご期待しまくります(´-`)b
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2011/07/29 16:47
地元の海 そして 15歳で単独事故で亡くなった先輩を思い出してしまいました。

久しぶりの 短編小説 お疲れ様~
アバター
2011/07/29 16:05
>でも、俺って何時からこの人たちと話せるようになったんだろう。

この一文で確信しました。
「俺」も幽霊さんなんだな、と。
前半、後半で一人称が「俺」から、カオリである「私」になるけど
意外とすんなり読めました。

夏の海の眩しさも手伝って、とても明るい一篇だねw
アバター
2011/07/29 15:05
結局お兄さんの方は無免許運転で亡くなったのですね。
でも楽しい先輩方がいるこの場所にいるから、寂しく無いですね。
後味の爽やかなお話でした。
アバター
2011/07/29 13:02
おおおお〜〜〜〜〜〜

文才あるんですね〜〜〜^^b

幽霊と会話ができる辺りまで、、実話だと思って読んでました、、あはは、、、^^;
アバター
2011/07/29 12:41
お疲れ様ww
久しぶりに読んだなあ
何となく話は読めたけど、夏は怪談話が増えますね><
こういう『不思議』程度ならいいんだけど・・・

また楽しみにしてるよんw
アバター
2011/07/29 11:42
すごーーく
久しぶりに短編かいてみました

いやー
久々すぎて
なんかまとまってないわ~~w




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