■近代文藝之研究|研究|イブセンの解決劇(13)
- カテゴリ:その他
- 2011/07/24 22:01:35
■近代文藝之研究|研究|イブセンの解決劇 (13)
其内エーリダが加わつて、アーンホルムが去ると、エリーダは、夫を傍に腰かけさせ、思ひ定めた事を打ち明ける。自分等二人は今まで嘘を言ひ合つて居た。一緒になつたのは二人の不幸であつた。「本當は——交ざりけの無い本當は——あなたが入らしつて——わたしをお買ひなすつた。」ワ゛ングル「買つた——!お前の言ふのは——買つたと?」エリーダ「わたしだつて同罪です、一緒になつて取引して、自身をあなたに賣りつけたのですもの。」斯う喝破して、エリーダはワ゛ングルとの結婚が自分の自由な意志で成り立つたもので無いから、別れて呉れといふ。自分の家はやはり船員の方にあると思はれる。何うしても其の方に引きつけられる、恐ろしいやうな力がある。別かれてその方へ行くより外は無いといふ。そこへ娘二人、アーンホルム。リングストランド等が這入つて來る。エリーダが明日は旅に行くと聞いて、ヒルダは、行くがいゝやと絶望的な樣子を見せる。何故かとエリーダが聞くと、姉が、ヒルダは本當はエリーダから暖い言葉をかけられないのを口惜しがつて、それで反抗してゐるのだから、一言優しい言葉をかけてやつて呉れと説明する。エリーダもさてはと思つたが、今さら何うならうぞと兩手を頭の上に組んで、眼を見据える。幕。
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*註1其内エリーダが加わつて
原本では文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。
「エリーダ」は、この部分、原本では「エーリダ」とあるが誤植と思われるので改めた。
「内」の旧字体。「冂(=エンガマエ)」+「入」。
*註2:自分
「分」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hun_wakeru.jpg
*註3:嘘
「嘘」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kyo_uso.jpg
*註4:一緒
「緒」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/syo_o.jpg
*註5:交ざりけ
「交」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kou_majiwaru.jpg
*註6:「買つた——!お前の
原本では『「買つた——!、お前の』とあるが、読点は削除した。原本には感嘆符の後に読点の入っている箇所が何箇所かある。なのでこの読点は誤植ではなく、抱月自身は感嘆符後に読点を入れるべき、と考えていた可能性もあるが、ここでは一般的な表記法に改めた。
*註7:喝破
「喝」の旧字体。旁が「曷」。
*註8:ワ゛ングルとの結婚が
原本では「ワングルとの結婚が」とあるが誤植と思われるので改めた。
*註9:呉れ
「呉」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kure.jpg
*註10:船員
「船」の旧字体。「舟」+「几」+「口」。
*註11:這入つて
「這」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註12:絶望的
「絶」の正字体。旁の「色」が「刀」+「巴」。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zetsu.jpg
「望」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/bou.jpg
*註13:暖い
「暖」の旧字体。「日」+「爰」。
*註14:説明
「説」の旧字体。旁は「兌」。
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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1
優しい言葉かけるんだエリーダ