『平家物語』に見る陰陽道 11
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- 2009/05/02 20:00:25
○泰親 (巻第五 三 物怪の事)p239
又入道相國、…、朝夕撫で飼はれける馬の尾に、鼠、一夜(いちや)の中(うち)に、巣をくひ、子をぞ産んだりける。「これ只事にあらず、御占(みうら)あるべし」とて、神祗官にして、御占あり。「重き御愼(おんつつしみ)」と占ひ申す。この馬は、相模國(さがみのくに)の住人大庭(おほばの)三郎景親が、東(とう)八箇國一の馬とて、入道大相國に參らせたりけるとかや。黒き馬の額の少し白かりければ、名をば望月とぞいはれける。陰陽頭(おんやうのかみ)安倍泰親賜はつてげり。
《訳》
また清盛、朝夕慈しんで飼育されていた馬の尾に、鼠が一晩のうちに巣を作り、子を産んだ。「これはただ事ではない。占うべきである」として、神祗官で占いがあった。「重き慎み事」と占い判じた。この馬は相模の国の住人である大庭三郎景親が、関東八か国中随一の馬だとして、清盛に献上したものとか。黒馬で額が少し白かったので、名前を望月とつけられた。(馬は)陰陽頭安倍泰親に下げ渡された。
《解説》
遷都を強行した清盛に次々と怪異が起こる場面である。物語は続けて、天智天皇の治世に、同じように馬の尾に鼠が一夜にして巣喰い、子を産んだ時は異国の凶賊が蜂起したと日本書紀に記述があると続けている(天智天皇元年条)。凶兆を示した馬を泰親に下げ渡したことには、当然彼に祓えを修させたであろうことは想像に難くない。 この後、源頼朝謀反の報告が大庭景親の早馬による報告譚に繋がり、さらなる不気味さを助長する。
無理な上司の命令に逆らえず、しぶしぶ仕事をするサラリーマンですなあ。(笑)
凶兆の前例がある以上、それを祓い吉兆に変換する事が陰陽師に課せられたのでしょうね。