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■近代文藝之研究|研究|イブセンの解決劇(7)

■近代文藝之研究|研究|イブセンの解決劇 (7)

女、それだけは本當である「夜も晝も冬も夏もわたしの身につきまとうて何うすることも出來ないのは、この想ひ、たゞもう海が懷しい」併しまだ其の上に深い事情は、自分が結婚約束をした人のあることであると答へる。ワ゛ングルは合點して、それも察してゐるが、その男こそあのアーンホルムであらうといふと、女はそれを打ち消して、その事はもう前にも略〓[#踊り字「二の字点」]打ち明けて置いた通りである、現に自分の心にかゝつてゐるのは別な人、先年アメリカ船で船長を殺して姿を隱した、あの二等船手こそは當時自分が言ひかはした男であると、始めて打ち明ける。ワ゛ングルは驚く。エリーダがまだ燈臺守の娘であつた頃、此の船手と逢つて相語る事柄は、海の事ばかり、女も殆どみづから海の一族かと思ふがかりに、海が其の心に通ふ。そして彼と夫婦約束をした。男がさうしなくてはならぬと言つた。女は何といふことなしに、ただもう其の指圖に背くことが出來なかつた。そこで男は鍵輪に二人の指輪をつないで、遙か沖へ投げ込み、固めのしるしとした。



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*註1:女、それだけは
原本では文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。

*註2:冬も
「冬」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tou_huyu.jpg

*註3:海が懷しい・海の事・海の一族・海が其の心
「海」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kai_umi.jpg

*註4:事情
「情」の正字体。「月」は「円」。

*註5:自分
「分」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hun_wakeru.jpg

*註6:消して
「消」の旧字体。旁の「ナオガシラ」は「小」。

*註7:前にも
「前」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zen_mae.jpg

*註8:略〓[#踊り字「二の字点」]
「〓」は踊り字「二の字点」。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/odoriji_2.jpg

*註9:通り・通ふ
「通」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註10:アメリカ船・船長・船手
「船」の旧字体。「舟」+「几」+「口」。

*註11:姿を
「姿」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/shi_sugata.jpg

*註12:夫婦
「婦」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hu_tsuma.jpg

*註13:投げ込み
「込」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1

アバター
2011/07/08 23:31
沖に投げ込んだらやだな指輪といっしょに




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