放射能に安全な量など無い
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- 2011/06/30 21:43:10
ニューヨークタイムズ(2011年4月30日)掲載 格納容器や燃料プールが一つでも爆発を起こせば、北半球全体で癌の新しい発症率が何百万も増加するのだ、と。 原発推進派はこれを否定するでしょう。先週おこなわれたチェルノブイリ事故25周年の集まりでも、「犠牲者はほとんどいなかったし生存者の子供たちに関しても遺伝的異常が見つかるケースはほとんどない」と何人もの人達が言っていました。石炭燃料に比べて原子力は安全だとか、福島近辺に住んでいる人達の健康についての楽観的予測も、そのような観点から簡単に導き出しているのです。 私のようにきちんと状況を理解している医者達にとっては、これはとてつもなく酷い情報で何の根拠もない議論だとすぐに分かります。チェルノブイリ事故の犠牲者の人数に関しては大きな議論がずっとなされています。International Atomic Energy Agency (IAEA)は約4000人があの事故が原因で癌を発病して亡くなっていると発表をしていますが、2009年にNew York Academy of Scienceのリポートでは、約100万人の人達が事故の影響で癌やそれ以外の病気にかかって亡くなっているという結論をだしています。更に、高濃度放射能の放出によってどれだけの流産が起きたかについては、遺伝子を破壊された胎児の人数を知ることはできないのでその犠牲は数に入っていません(ベラルーシやウクライナでは奇形で生まれた多くの子供達が施設に住んでいます)。 広島と長崎のケースから分かるように、癌の発病は何年もの時間がかかります。白血病は5から10年ですが、癌となると15から60年かかったりします。更に、放射能が関係する変異体は劣性的に起こります。つまり、二つの劣性遺伝によって特殊な病気をもった子供が産まれるまでには何世代も時間がかかったりするのです。特殊な病気とは、私の専門である嚢胞性繊維症などのことです。要するに、私たちはこれからの将来にチェルノブイリや福島の事故で拡散された放射性物質によってどれくらいの癌や他の病気が発病されるのかまったく分からない状態なのです。 医者達はこのような危険な状況を理解しています。私たちは白血病から子供達を救うために、そして転移性乳癌から女性達を救うために一生懸命働いているのです。それでも、医療的観点からこのような不治の病をどうにかする唯一の方法は予防でしかないのです。そのような事から、医者達ほど原子力産業に関わる物理学者達に対して声を上げる準備ができている人達はいないでしょう。 そんな物理学者達は放射能の”許容用量”なんて事について説明をします。彼らは、原発や核実験などで拡散される放射性物質が体内にとりこまれ、小さな細胞に大量の放射能が取り込まれる体内被ばくを全く考慮に入れずに議論をするのです。原発から拡散される放射性物質にしても、医療レントゲン、宇宙、そして自然界からの放射性物質にしても、彼らは常に健康への被害の少ない体外被ばくにだけに焦点をあてるのです。 しかし、医者達は放射能に関して安全な許容量などない、また放射能は蓄積されるものであることを知っています。放射能の影響で起こる細胞変異は一般に有害なものばかりです。嚢胞性繊維症、糖尿病、フェニールケトン尿症、筋ジストロフィなどの病気を引き起こす何百もの遺伝子を私たちはもっています。現在、2600以上もの遺伝的疾患があると言われていますが、そのどれもが放射能に由来する細胞変異に関係している可能性があります。そして、私たちが人工的に拡散される放射能のレベルを引き上げていることで、これらの病気の発病率は上がっていくことでしょう。 つづく
「安全な量などない」(Unsafe At Any Dose)
by ヘレン・コルディコット医師
(Founder of Physicians for Social Responsibility and Author of "Nuclear Power Is Not the Answer")
6週間前に初めて日本の福島第一原発の原子炉の損傷を聞いたときに、私は一つの事を確信しました。
原子力事故は決して終わりがないのです。チェルノブイリ事故の放射能汚染による影響は、何十年もしくは何世代も時間がたたないと全貌を理解することができないのです。