ただ、降る雨のせいで
- カテゴリ:その他
- 2011/06/30 01:21:30
「は? 信じらんない!? 何なの?」
鈴は、大声を上げた。涼介は、両手で耳を塞いで耐えた。
「こんなことなら、家に居た方が良かった!」
七夕の人出を甘く見ていた自分にも落ち度はあるだろう。
けれど、なにもそこまで怒らなくても…。 と涼介は思った。
だからそんな鈴の怒号には付き合わず、のん気に口を開いた。
「全然、花火見えませんね~」
「涼介…」
鈴が、僕の名前を、そう呼ぶ時は、他の誰が呼ぶときとも違う、特別な響きで満ちていた。
悪意があって、慈悲深く、それでいて甘美だった。
「どうしてくれるの?」
「どうしてもって言われてもなぁ」
先の見えない人波は、うんともすんとも動かず
二人はまるで、無人島に取り残されたかのようだった。
進退窮まっていると
ポツ…ポツ……。
不意に頭頂部を冷たいものが叩いた。
空を見上げると、雫が強く顔を打つ。
雨が降ってきたのだ。
先ほどまで、まったく動かなかった人波が、一斉に蜘蛛の子を散らすように
てんでバラバラの方向に逃げてゆく。
涼介と鈴も、アーケードの下へと滑り込んだ。
ざっと降った雨は、一時の涼を運んできたが、すぐにそれは、不快なものへと変わった。
湿度は、みるみる上昇し、まるで町中が霧で満たされた水槽のように…。
夜は、ゆっくりと霧の中へと沈んでいった。
『只今をもちまして、本日のプログラムは全て終了しました』
乾いた声のアナウンスが、湿った夜に木霊した。
鈴は、不満そうに、口を尖らせた。
「どう落とし前つけてくれるの?」
お前はヤクザか?
そう口にしたいのをグッと堪え、なるべく穏やかな口調で話題を変えた。
「なあ、そういえばさ、前言ってなかった?」
「ん?何を?」
「どうして夜に虹が見れないの~?ってさ」
「あ~太陽がないと虹は見れないんだってね
だから無理なのよ 世界中のだれも見たことないの」
「ほほ~じゃあさ!天の川に虹が掛かったりしたら、今回の事チャラにしない?」
「いいわよ~掛かったらね」
鈴は、半ば呆れ顔で言った。
涼介はそれを見て、ゆっくりと目を閉じた。
「ねぇ、何してるの?」
「勿論、夜空に虹を掛ける努力さ」
「一年に一度の七夕なのに…」
織姫は、増水した天の川を見てうなだれた。
岸の向こうでは、彦星が手を振りながら声を上げた。
「天の川は、地上の願いを天界へと送る道、今年はそれだけ地上が大変だったってことだ」
「それにしたって、なにもこの日じゃなくても」
織姫は、絶望のあまり、両の膝を着いてさめざめと泣いていた。
「また、ずいぶんと諦めがいいじゃないか?」
そう言う彦星の声にはまだ、力強さが残っていた。
「え?だって…」
彦星は、辺りを見回して、バケツを見つけると天の川の水を掻き出し始めた。
「え?そんなことで、水かさが減るわけないじゃない」
「やってみないと、わからないだろ?奇跡は諦めてたら絶対に起こらないぜ」
彦星は、勢い良く水を外にぶちまけた。
「あ、流れ星!」
空を眺めていた鈴が、声を上げた。
小さな流れ星が、天の川の傍を流れていった。
涼介は鈴の言葉に気づいてないのか祈っているだけだった。
「流星群が、あるなんて話なかったけどなぁ」
鈴は、空を見上げ続けていた。
「もう止めて!」
織姫は、悲痛な声を上げた。
「止めるわけにはいかんのさ、何しろ止め方を習ってないんだ」
「こんなことしたって、何か変わるわけじゃないでしょ?結果は見えているわ」
「途中で投げ出すわけには、いかんのよ! 男の辛いところさ」
彦星は、黙々とバケツで汲んだ水を外に放り投げていた。
捨てられた水は、綺麗な一条の光となって、漆黒の宇宙へ消えていった。
「もういいわ、手だって血まみれじゃない」
彦星の手は、豆もつぶれ、バケツの取っ手の部分は赤く染まっていた。
「何、抱きしめるときは、綺麗に洗って、タキシードに着替えるさ!」
「もういい、来年まで我慢する…。だから止めて」
織姫の涙が天の川に落ちると、天の川の水かさは、見る見る増して行き、ついに氾濫した。
こぼれた大量の水は、引力に惹かれるかのように、青い星めがけて降り注いでいった
光の塊となって…。
「ええっ!何これ!?」
空を眺めていた鈴は、大声を上げた。
先ほどまでは、単発で流れていた流星は、その数を増していった。
その光景は、向きこそ逆さだが、海から登る太陽によく似ていた。
少しずつ南の空の上の方が明るくなり、やがて一点に光の道が現れた。
次の瞬間、まるで、何かが爆ぜるようその道から放射線状に光が走る。
光の滝と化した流星の群れは、全天を照らし出した。
それは、まるで、真夜中の夜明けのように…。
この異様な光景に、しばし見入っていた鈴は、すぐ隣の天の川の異変に気が付いた。
「え?これって?」
こうして本当に、天の川に、七色の橋が掛かったのだ。
「え?本当に?」
『言ったろ?奇跡は案外起きるものさ』
織姫の涙で虹がかかって・・・涼介くんと鈴ちゃんは、奇跡に出会えたわけだけど・・・
うぐ・・悲しい。。。
彦星さんの男気には、ほんとしびれちゃいますわー^m^*
余裕をかましている涼介さんは
実は彦星さんの生まれ変わりだったりして?ww
話はまったく変わりますが・・
ハワイなどでは夜に虹が見れたりするみたいですねえ^^
祝福の虹とも云われてるらしい^^滅多に見れないみたいだけどね^^;
最後のほうの天の川に七色の橋がかかるシーンを読んで
ちょっと思い出しちゃったw
七夕の奇跡 ステキですね♪
なんだか今年はずっと空を見上げてしまいそうです