Nicotto Town



ただ、降る雨のせいで

「は? 信じらんない!? 何なの?」

鈴は、大声を上げた。涼介は、両手で耳を塞いで耐えた。

「こんなことなら、家に居た方が良かった!」

七夕の人出を甘く見ていた自分にも落ち度はあるだろう。

けれど、なにもそこまで怒らなくても…。 と涼介は思った。

だからそんな鈴の怒号には付き合わず、のん気に口を開いた。

「全然、花火見えませんね~」

「涼介…」

鈴が、僕の名前を、そう呼ぶ時は、他の誰が呼ぶときとも違う、特別な響きで満ちていた。

悪意があって、慈悲深く、それでいて甘美だった。

「どうしてくれるの?」

「どうしてもって言われてもなぁ」

先の見えない人波は、うんともすんとも動かず

二人はまるで、無人島に取り残されたかのようだった。

進退窮まっていると

ポツ…ポツ……。

不意に頭頂部を冷たいものが叩いた。

空を見上げると、雫が強く顔を打つ。

雨が降ってきたのだ。

先ほどまで、まったく動かなかった人波が、一斉に蜘蛛の子を散らすように

てんでバラバラの方向に逃げてゆく。

涼介と鈴も、アーケードの下へと滑り込んだ。

ざっと降った雨は、一時の涼を運んできたが、すぐにそれは、不快なものへと変わった。

湿度は、みるみる上昇し、まるで町中が霧で満たされた水槽のように…。

夜は、ゆっくりと霧の中へと沈んでいった。




『只今をもちまして、本日のプログラムは全て終了しました』

乾いた声のアナウンスが、湿った夜に木霊した。

鈴は、不満そうに、口を尖らせた。

「どう落とし前つけてくれるの?」

お前はヤクザか? 

そう口にしたいのをグッと堪え、なるべく穏やかな口調で話題を変えた。

「なあ、そういえばさ、前言ってなかった?」

「ん?何を?」

「どうして夜に虹が見れないの~?ってさ」

「あ~太陽がないと虹は見れないんだってね

だから無理なのよ 世界中のだれも見たことないの」

「ほほ~じゃあさ!天の川に虹が掛かったりしたら、今回の事チャラにしない?」

「いいわよ~掛かったらね」

鈴は、半ば呆れ顔で言った。

涼介はそれを見て、ゆっくりと目を閉じた。

「ねぇ、何してるの?」

「勿論、夜空に虹を掛ける努力さ」







「一年に一度の七夕なのに…」

織姫は、増水した天の川を見てうなだれた。

岸の向こうでは、彦星が手を振りながら声を上げた。

「天の川は、地上の願いを天界へと送る道、今年はそれだけ地上が大変だったってことだ」

「それにしたって、なにもこの日じゃなくても」

織姫は、絶望のあまり、両の膝を着いてさめざめと泣いていた。

「また、ずいぶんと諦めがいいじゃないか?」

そう言う彦星の声にはまだ、力強さが残っていた。

「え?だって…」

彦星は、辺りを見回して、バケツを見つけると天の川の水を掻き出し始めた。

「え?そんなことで、水かさが減るわけないじゃない」

「やってみないと、わからないだろ?奇跡は諦めてたら絶対に起こらないぜ」

彦星は、勢い良く水を外にぶちまけた。








「あ、流れ星!」

空を眺めていた鈴が、声を上げた。

小さな流れ星が、天の川の傍を流れていった。

涼介は鈴の言葉に気づいてないのか祈っているだけだった。

「流星群が、あるなんて話なかったけどなぁ」

鈴は、空を見上げ続けていた。








「もう止めて!」

織姫は、悲痛な声を上げた。

「止めるわけにはいかんのさ、何しろ止め方を習ってないんだ」

「こんなことしたって、何か変わるわけじゃないでしょ?結果は見えているわ」

「途中で投げ出すわけには、いかんのよ! 男の辛いところさ」

彦星は、黙々とバケツで汲んだ水を外に放り投げていた。

捨てられた水は、綺麗な一条の光となって、漆黒の宇宙へ消えていった。

「もういいわ、手だって血まみれじゃない」

彦星の手は、豆もつぶれ、バケツの取っ手の部分は赤く染まっていた。

「何、抱きしめるときは、綺麗に洗って、タキシードに着替えるさ!」

「もういい、来年まで我慢する…。だから止めて」

織姫の涙が天の川に落ちると、天の川の水かさは、見る見る増して行き、ついに氾濫した。

こぼれた大量の水は、引力に惹かれるかのように、青い星めがけて降り注いでいった

光の塊となって…。








「ええっ!何これ!?」

空を眺めていた鈴は、大声を上げた。

先ほどまでは、単発で流れていた流星は、その数を増していった。

その光景は、向きこそ逆さだが、海から登る太陽によく似ていた。

少しずつ南の空の上の方が明るくなり、やがて一点に光の道が現れた。

次の瞬間、まるで、何かが爆ぜるようその道から放射線状に光が走る。

光の滝と化した流星の群れは、全天を照らし出した。

それは、まるで、真夜中の夜明けのように…。

この異様な光景に、しばし見入っていた鈴は、すぐ隣の天の川の異変に気が付いた。

「え?これって?」

こうして本当に、天の川に、七色の橋が掛かったのだ。





「え?本当に?」

『言ったろ?奇跡は案外起きるものさ』

 

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2011/07/03 01:04
血まみれになって頑張った彦星は・・・織姫に会えなかったの?・・・・ぐすん。。

織姫の涙で虹がかかって・・・涼介くんと鈴ちゃんは、奇跡に出会えたわけだけど・・・

うぐ・・悲しい。。。
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2011/07/02 00:59
この話・・やっぱり好きだなあvv
彦星さんの男気には、ほんとしびれちゃいますわー^m^*
余裕をかましている涼介さんは
実は彦星さんの生まれ変わりだったりして?ww
話はまったく変わりますが・・
ハワイなどでは夜に虹が見れたりするみたいですねえ^^
祝福の虹とも云われてるらしい^^滅多に見れないみたいだけどね^^;
最後のほうの天の川に七色の橋がかかるシーンを読んで
ちょっと思い出しちゃったw
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2011/06/30 14:25
こんにちは
七夕の奇跡 ステキですね♪
なんだか今年はずっと空を見上げてしまいそうです
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2011/06/30 06:33
INDEX読んで、意味が判りましたぁ^^




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