■近代文藝之研究|研究|イブセン小傳(38)
- カテゴリ:その他
- 2011/06/29 22:22:17
■近代文藝之研究|研究|イブセン小傳 (五)(8)
[#ここから1字下げ]
今ミユンヘンに中年なる一人の諾威紳士住めり。快活なる此の都市の群衆間に出入して、人に氣づかるゝこと稀れに、引き籠もり勝にて、想ひに耽る無邪氣の人物なり。折々彼れは一卷の原稿をコーペンハーゲンに送るを見る。
同時に丁抹の新聞紙は、イブセンの新詩出でんとすとの報道を傳ふ。此の報道は文學界に於ける他の何事よりも多く人々の視聽を聳てしむるなり。而して温雅なる瑞典の記者等は、此れを機會に此の高名なる詩人が好んで他國に流浪することを止め本國に歸らんことの、如何に妙なるべきかを説いて休まず。
暗澹たる森、陰鬱なる水、磽〓[#「石」+「角」]の峯、北洋の氷山は沖に聳えて、空氣は鋭く冷かなり。斯かる地にありては、自然夢の如き神女の歌に慰められずして、暴力の爲に捕へられたり。斯くの如く諾威は、元氣溢るゝ若き健兒、優しき乙女、疲れずひるまざる民衆の母國なり。
--------------------
*註1:都市
「都」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/to_miyako.jpg
*註2:引き籠もり勝
「勝」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/katsu.jpg
*註3:送る
「送」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sou.jpg
*註4:報道
「道」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註5:文學
「文」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/bun_aya.jpg
*註6:温雅
「温」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/on_atataka.jpg
*註7:瑞典
「スウェーデン」の漢字表記。
*註8:記者
「記」の俗字(か?)。旁が「己」ではなく「巳」。
「者」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mono.jpg
*註9:流浪
「浪」の俗字体(か?)。Unicode にも文字種がないようなので作字してみた。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/rou_nami.jpg
*註10:説いて
「説」の旧字体。旁は「兌」。
*註11:磽〓[#「石」+「角」]の峯
「〓」は扁が「石」+旁が「角」。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kaku_tasika.jpg
「磽〓」で「コウカク」と読む。「石の多いやせ地」の意。
*註12:鋭く
「鋭」の旧字体。旁は「兌」。
*註13:神女
「神」の旧字体。扁の「ネ」が「示」。
*註14:溢るゝ
「溢」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ahureru.jpg
--------------------
■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1

-
- 銀の堕天使@ゆう
- 2011/06/29 22:26
- 今日も暑いですよ
-
- 違反申告