『精霊の世界、星の記憶』第10話「ローズ~」②
- カテゴリ:自作小説
- 2011/06/21 21:56:04
シルビアは何となくセイジがお母さんの話になると表情がくもること、どこか遠い目になることがわかった。
くもった表情を打ち消すように、
「ぼくのお母さんは歌手なんだ。シャンソンという歌を歌ってる。日本の歌も歌うよ」
と星史は明るく言った。
「シャンソン? 知っているわよ! 心を歌っている歌よね。ちょっと派手なような感じがするけど、まるで大木のよう、花のよう……薔薇の花のようだわ。そうねぇ、真紅の薔薇、燃えるような炎という感じがするわ。日本の歌も好きよ。日本の歌は……そう、川が流れるようで、雲がゆっくり流されているようで、そよ風になびく草のよう、そんな感じがするわ」
と言うと、ローズ・フローラは立ち上がった。
「わたし、歌えそうな気がするわ。心の歌を……」
胸に手をあてそっと目を閉じ、そして大きく深く息を吸った。
風のゆく道 人生の道
やさしく吹くのは やさしい気持ち
激しく吹くのは 激しい気持ち
雨と一緒に吹くのは 悲しい気持ち
素直に言いましょう
閉じ込めることはないの
わたしの今の気持ちは そう
風のない 暖かい天気のよう
太陽が照らす 雨上がり
さぁ 歌いましょう
穏やかな風に乗せて
さぁ 歌いましょう
花たちのため あの人のため
ローズ・フローラの晴れやかな明るい歌声に、薔薇の花たちは活き活きときらめき、楽しそうにゆらゆら花をゆらした。
その歌声を聞きつけたのか、どこからともなく他の花の精霊たちがふわりと風に乗って舞い降りてきた。
「ティア=ローズ・フローラ」
「マリ=ローズ・フローラ」
と口々に花の精霊たちはローズ・フローラを囲み、声をかけた。
ローズ・フローラは目を見開き驚いていたが、にっこりと笑って、
「ありがとう、みんな。心配をかけていたのね。本当にありがとう!!」
と花が開くような声で言った。