『精霊の世界、星の記憶』第9話「薔薇の花の雨」①
- カテゴリ:自作小説
- 2011/06/11 18:14:09
第二章 アプリコットの野
「薔薇の花の雨」
小高い岩からふわりと花びらが舞い散るようにスカートを広げて、ローズ・フローラは星史たちの前に舞い降りた。
「人間に殺されたって……」
と星史は、何か心に沈んでいくものを感じながらつぶやいた。
「そうよ、殺されたの。あなた人間でしょう?」
星史はこくりうなづいた。
「あなたがなぜ、こんな所にいるのかわからないけど、わたしは人間が大嫌いなの!さっさと、この精霊の世界から出て行きなさい」
とローズ・フローラはキッと目をつり上げ、星史をにらみつけるように見た。
星史は黙ったままローズ・フローラの黒い目をただ見つめた。
ローズ・フローラは星史のあまりにも澄んだまなざしに、ふと視線逸らした。
「早くわたしの目の前から、消えてちょうだい。人間なんて、視界に入ってくるのも嫌。見ていたくないのよ」
とローズ・フローラが激しく言うと、シルビアは困った顔をして、
「ティア=ローズ・フローラ、イオディー モストラビューリ(年上の精霊ローズ・フローラさん、この人が悪いわけではないわ)」
となだめるように言った。
「セリア=シルビア、クリリマ イーノ。ウェル クロロマ ロリス スーレ……(森の精霊シルビア姫、わかっているわ。わかっているけど、言わずにはいられないのよ……)」
とローズ・フローラは辛そうにそう答えた。
星史にはどういう会話をしているかわからなかったが、
「ローズ・フローラさん、ごめんなさい。ここからすぐに離れるけど、でも、人間界にはすぐ帰れないんだ。セフィロスが疲れて寝むちゃって……」
と深く頭を下げながら言った。ローズ・フローラはセフィロスという言葉を聞いて、
「ウィル・セフィロス?(始祖老樹・セフィロス?)セフィロス様が? なぜ?」
と驚いて言った。
「どういうこと……?」
「セイジはセフィロス様に呼ばれて、この精霊の世界に来たの。どういう理由か、わたしにもそれはわからないけど……」
とローズ・フローラの問いにシルビアが答えた。
「あのう、本当にごめんなさい。ぼくもう行きますから」
と星史はもう一度言って、そこから立ち去ろうと後を向いた。
「待って!」
となぜかローズ・フローラは星史を引き止めてしまった。
思わず星史は振り返って、ローズ・フローラを見つめた。
ローズ・フローラも星史をしばらくじっと見つめた。そして、
「待って、わたし言いたいことがあるの。ついて来て」
とぽつりと言い、ローズ・フローラは歩き出した。
星史はシルビアの方をチラッと見た。
シルビアは小さくうなずいて、ローズ・フローラの後について行った。
星史もあわててついて行った。
ついて行くとマゼンタ色の薔薇の花が広がる花園に、白いガーデンテーブルとイスがあった。
「そこに座って」
とローズ・フローラは抑揚のない声で二人に言った。
星史はシルビアと顔を見合わせて、白いイスに座った。
ローズ・フローラは淡いピンク色のお茶をカップに注ぎ、星史とシルビアの前に置いて空いているイスに座った。
「どうぞ、飲んで。薔薇の露と薔薇の花のお茶よ」
と二人にお茶をすすめた。
星史はカップを取り、口の方へ運んだ。
薔薇の芳しい香りが漂ってきて、お茶を口に含むとその香りが口中にほんのり甘く漂ってきた。
「カトゥル・フイュは、人間に殺されたのよ……」
とローズ・フローラは頬杖をつきながら、ぽつりと言った。
星史は静かにカップを置き、ローズ・フローラを見つめた。
「そう、殺されたの。人間は欲深い生き物、自分たちのことだけしか考えていない。他の生き物のこととか、地球の循環システムとか無視して、全然考えていないのよ。森を削り、水を汚し、挙句の果てに自分たちの首まで絞めている。愚かだわ……」
と独り言のようにローズ・フローラは言った。