W.デ・ラ・メア『妖精詩集』
- カテゴリ:小説/詩
- 2009/04/19 02:39:59
from 詩集「夢の世界/W.デ・ラ・メア」
音 楽
音楽が聞こえると、ぼくの知ってる地上は消える、
そして いとおしい地上のものが、いよいよいとおしくなる、
地上の花は まぼろしのように燃えあがり、
森の樹々は 重い大枝をのばし 恍惚に身をこわばらせた。
音楽が聞こえると、水の精(ナイアド)たちが水から出てきて、
めざめているぼくの目を その美しさでくもらせる、
うっとりするような顔は どれもふしぎな夢に浮かされて燃えあがり、
彼女たちのすみかは おごそかなこだまを引いて揺れる。
音楽が聞こえると、ぼくはすっかり昔のぼくに戻る
この陰気なほこりっぽいすみかに来る前の。
そんなあいだにも、ぼくが足早に先を急げば、
つばめの翼をもつ時間(アワー)たちが
<時(タイム)>の森から分かれて 遠い歌となって消える。
W.デ・ラ・メア『妖精詩集』荒俣 宏:訳
(ちくま文庫1988.5.31第一刷/2005.10.15第二刷)
音楽をいっしょに楽しんでる時はこころはひとつになってるのかも^^