■近代文藝之研究｜研究｜イブセン小傳　(一)(２)

諾威が獨立した近世の政治歴史は千八百十四年に始まれども、其の久しく丁抹の制御の下に荒廢し去つた自國語、自國感情が再び文藝に獨立するまでには時日を要した。されば此の國の十九世紀文藝の夜明けは、千八百四十年代であると稱せられる。更に中古の文學に溯れば、所謂古エダ(Old Edda)の民謠に於ける、サガ(Saga)の傳説に於ける、皆當時始めて此の地方に現はれた諾威民族の思想感情を寓したものである。さればイブセンが初期に於いて取つた題材には、此のエダやサガを本としたものが少なく無い。さて十九世紀の諾威文學は諾威のシラーと稱せられる、ヴェルゲランド。乃至ヴェルハーヴェン等の名によつて獨立の基礎を固くし、以て十九世紀の後半に及んだ。十九世紀の後半は即ちイブセンによつて此の國の文學が欧羅巴の覇となつた時代である。



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＊註１：近世
「近」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

＊註２：歴史
「歴」の旧字体。「林」が「禾」＋「禾」。
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「史」の旧字体。
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＊註３：千八百十四年
ノルウェーは1380年(室町期３代将軍義満の時代)〜1814年(文化11年)までは、デンマークと同君連合形成し、実質デンマーク支配下にあった。1813年(文化10年)のライプチヒの戦いでナポレオン軍が大敗北を喫すると、スウェーデンは自国の西の楯としてノルウェーを利用したいと考え、デンマークに軍事的圧力をかけ、1814年にノルウェーをスウェーデンに割譲させることに成功する。以後、ノルウェーは同君連合という名の下にスウェーデンに支配されていたが、1905年(明治38年)、スウェーデンとの同君連合を解消してやっと独立した。独立に際しては、デンマーク王家から国王(カール王子⇒ホーコン７世)を迎えた。

＊註４：丁抹
デンマークの漢字表記。

＊註５：感情
「情」の正字体。「月」は「円」。

＊註６：文藝・文學
「文」の旧字体。
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＊註７：要した
「要」の俗字体。
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＊註８：世紀
「紀」の俗字(か？)。「糸」＋「已」。

＊註９：更に
「更」の旧字体。
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＊註10：所謂
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg

＊註11：傳説
「説」の旧字体。旁は「兌」。

＊註12：ヴェルゲランド。乃至ヴェルハーヴェン
ヘンリック・ヴェルゲラン(Henrik Wergeland／1808年～1845年)と、ヨハン・セバスチャン・ヴェルハーヴェン(Johan Sebastian Welhaven／1807年〜1873年)のこと。
２人の相違・対比についての簡潔な紹介は下記 URL を参照されたい。
[参照ＨＰ]⇒http://www.norway.or.jp/news_events/culture/literature/wergeland_200/

＊註13：後半
「半」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/han.jpg

＊註14：欧羅巴の覇
「覇」の俗字体。「襾」＋「革」＋「馬」。(＊正字は「雨」＋「革」＋「月」)

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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月（滝太郎）著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1