「あー、あーっ !! ダメーェ～」
えっ、と私は驚いてソファーから飛び退いた。
彼女は慌ててソファーに駆けより、銀色の人形を抱きかかえた。
私はとある文芸編集者、とある女性作家から今日こそは原稿を頂こうと、
ガッツを出して自宅へ再度チャレンジしに来ている。
部屋にはあげてもらえたもの、ソファーに腰をかけようとしたら怒られた。
「あなた、どこに座ろうとしたのょ、今」
「すいません、人形が置いてあるだなんて気がつかなくて」
「注意してょね」
「はぃ、すいません」
「置いてあったんじゃないわ、座ってたのょ」
「はい ? 」
「それに人形じゃないわ、これはバービーょ」
「は・・はぃ・・・・・」
「TNTバービー、アッシュ・ブロンド。おそらく1967年モデル、正確にいえばTHE MODeraよ」
「イーラ ? 」
「そぅ、モッズ期に入って初頭のモデルね。
TNTと言うのはツイスト・アンド・ターンの略で、
要するに胴に継ぎ目があって腰をひねる事が出来るって事。
ヌードで売ってたから、服は手作りのドレスを着せたの。
あと、その隣のもチョット色黒だけどバービーょ、イン・ザ・リミテッド1997年。
マテル社のウエブ・サイトで買ったの、で、そっちはミッジ。
1998年ミッジ・ギフトセットね、あと、妹のスキッパ―。
従妹のフランシーでしょ、窓際のはケンとアランよ。
ケンの名前ぐらいは知ってるわよね」
「へ ? 」
「知らないの !? 」
「はぁ」
「知らないの ? 常識だからこれくらい覚えておきなさいょ、これが、ケン。
バービーのボーイフレンドょ、登場は1961年バービーの発売から遅れる事２年だから。
古い付き合いね、私も八体持ってるわ」
「はぁ」
「でも聞いてょ、こないだケンとバービーは別れちゃったのょ。
もぅびっくりょ、だってバービーとケンはもう43年も付き合っていたのょ。
すごいと思わない ? 」
「はぁ」
「バービーの代理人であるマテル社によると、
別れの原因はケンが結婚を渋ったからという事だけど、これは疑問よね。
仕組まれた芝居のような匂いがする、
それで六月にマテル社からブレインっていう新しいバービーの恋人が発売されただけど、
これが何とオーストラリア人サーファーなのょ。
カリフォルニアに引っ越してきたばかりで、
その前はハワイでサーフィンの腕を磨いてたんですって。
で、またこれがカッコよくてケンと別れさせられても仕方ないか、ってカンジなのょ。
私も新しいカリ・ガールズシリーズを買おうかなって思ってるんだけど、
でもさあ、そうするとケンの立場ってものがないじゃない ? 。
いくら別れてもいいお友達っていっても、
すぐにこの部屋から出でけって追い払うわけにもいかないし・・・ねぇ、チョット聞いてる。」
「あ、はぃ、はい」
「ほんとに聞いてる ?」
「はい、はぃ、別れてもいいお友・・・・」
「じゃ問題。バービーの新しい彼氏の名前は何でしよう」
「・・・・・・・・・」
「新しい彼氏の名前ょ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ボ・・・」
「ブッブー時間切れ、答えはブレインょあなた人の話聞いてないでしょ」
私はうなだれた。

「残念だわ、今回もあなたには原稿は書いてあげられない。本当に残念だわ」　。