別れと出会いの花<上>(自作小説倶楽部お題)
- カテゴリ:自作小説
- 2011/04/04 23:56:07
別れと出会いの花<上>副題:自作4月/ 「桜『別れと出会いの花』」
それは、遠い遠い出来事だ。
今の私が見ているのは過去の光景だ。
それは何百年も前に起こった出来事。けれど、それは、つ、い、こ、な、い、だ、のようにも思える。
なぜなら、そ、こ、に、私は居たのだから。
当時の私はある計画に携わっていた。
作戦名「ノヴァシールド」。それが計画(ミッション)のコードネームだった。
その目的は、外宇宙から、人類の認知圏の外側からやってきた異生体「星喰い」の襲来を阻止すること。
星喰いは生体と呼ぶにはあまりに想像を絶する存在であり、宇宙へと進出した人類が遭遇した種族のなかでも、とりわけ人類にとっては敵対感情を持たないまでも―――やつらに感情なるものが存在するかどうかは不明だが―――脅威であることにはかわりなかった。
その遭遇(ファーストコンタクト)は、人類認知圏の外縁にほど近い、入植がはじまって日の浅い惑星で起こった。ある期を境にして突然、入植地からの連絡が途絶えた。やがてそれは、人類認知圏をかすめるようにして広がっていった。人類連合帝国はすぐに原因究明に乗り出し、程なく、やつらへと突き当たった。
やつらは、その名の通り「星喰い」だった。やつらがどこで発生したのかは不明だが、定着地たる母星を持たず、銀河を徘徊し、その進路上にある天体資源を糧とする群生体だ。
記録映像で見たやつらが星を喰らう様はまさしく禍々しく壮観だった。餌に群がるピラニアの如く、霧のように広がった群生体が天体を包み込むと、宇宙標準時でわずか数年から数百年という期間で跡形も残らないまでに喰らい尽くしてしまう。後に残るのは、やつらの僅かな食べ残しだけだ。そのほとんどは覆った群体の中で光と熱に変換されてしまうという。やつらはまさしく生きたブラックホールだった。
しかしそんな星喰いどもにも行く手を阻むものはあった。
一定サイズ以上の巨星、中性子星、超重力天体、そして、超新星爆発だ。
連合宇宙軍は、何度か、持てる最強火力である超新星爆弾を星喰いどもに向かって撃ち込み殲滅を試みたものの、それは大した戦果をあげることなしに失敗に終わっていた。
疑似超新星爆発程度ではやつらには大した損害を与えることはできないらしい。殲滅に当たった部隊は、ことごとくやつらに呑まれてしまった。
報復から始まった星喰いと人類の関係だったが、やつらは人類に関心を寄せることはなく、次第にそれは、天体現象の一つであるかのように認識されるようになっていった。
その矢先だった。やつらの予想進路がほぼ確実に人類の版図を大きくえぐり、母なる星たる地球が呑み込まれる可能性があることが判明したのは。
帝国は何度も講和を試みたが、その結果は、先の接触の時と変わらなかった。先遣隊はことごとくやつらに呑み込まれてしまったのだった。
そこで考案されたのが、ノヴァシールドだった。
やつらの予想進路上にある適当な恒星に超新星爆弾を打ちこみ、超新星爆発を誘発させ、星喰いどもの進路を変えるのだ。
それが及ぼす影響は想像を絶する。だが、それ以外に当時の人類にこの脅威に対する策は思いつかなかった。
地球から光速でも到達まで百年以上かかる彼の座標へ、ハイパードライヴを繰り返し、数年をかけて、私たちは辿り付いた。
しかし、いざ作戦遂行という段階になって予想外の事態(トラブル)が起こった。恒星の活動が予想以上に安定していなかったのだ。
超新星爆発を誘発させるには、有効座標に正確に超新星爆弾を打ちこまなくてはならない。だが、恒星の活動が安定していないために、安全圏からの有効時差での作戦遂行が不可能である判明した。それはつまり遠隔操作での起爆が不可能になったということだ。
問題の解決は作戦遂行部隊内では不可能であり、星喰いどもが迫っている以上、ハイパードライヴを駆使して最寄りの基地まで戻るという時間的猶予もなかった。
しかし、最悪の事態に、作戦続行が不可能になったわけではない。ただ誰かが、確実に超新星爆弾の起爆スイッチを押して任務を遂行せねばならない。という必要に迫られただけだ。しかし、それは確実な死を意味した。
超新星爆弾の起爆に際して発生する副次的な作用―――変動する複数の重力源の発生に伴い空間安定が損なわれる―――によってハイパードライヴが使用不可能になる。それはつまり、恒星の超新星爆発から逃れることができず、その反応に巻き込まれてしまうということを意味した。
しかし、この作戦に失敗は許されない。たとえ私たち全員が犠牲となっても、その作戦は遂行されなければならない。この作戦には人類の命運がかかっているのだから。そのためには、誰かがその犠牲にならなければなかった。
そして司令部は協議の結果、時間的猶予と作戦の遂行可能率、それに要する要員数の兼ね合い―――作戦有効期間内において最小の犠牲で最大の効果が挙げられると判断される―――人数による実行部隊によって、作戦を実行するという決断を下した。