『かぼちゃくんの宅急便』大震災 ( 児童文学)②
- カテゴリ:自作小説
- 2011/03/20 17:07:39
その避難所の片すみに、青白く光る女性が立っていました。その女性は、男の子のお母さんでした。かぼちゃくんは男の子をじっと見つめる女性に近づき、ふわんと肩に飛び降りました。
「あの子のお母さんですか?」
と聞きました。その女性は悲しそうな、心配そうな、やさしさをそっと浮かべた顔をして、黙ったままうなずきました。
「このケーキの欠片は夢の欠片、思いを伝えてくれます。この欠片に、思いを込めてください」
とかぼちゃくんは、女性の手のひらに小さなケーキの欠片をそっと置きました。
男の子のお母さんは両手でその欠片をそっとやさしく包んで、目を閉じて祈るように思いをこめていました。そしてケーキの欠片をとても大事に抱きしめ、かぼちゃくんに渡しました。
「お預かりします、あなたの心を」
とていねいに頭を下げながら、かぼちゃくんはそうお母さんに言いました。受け取ったその小さなケーキの欠片に、かぼちゃくんは灯りの火種をそっと埋めこみました。
かぼちゃくんは眠っている男の子にそっと近づいて、口のなかにショートケーキの欠片を入れてあげました。男の子には、かぼちゃくんの姿は見えません。それはかぼちゃくんが妖精だからです。もし、男の子が目を覚ましても普通の人間には見えないのです。そして、感じられません。
男の子は、とてもこわい夢をみていました。しかし、こわい夢がお母さんの温かさにかわっていきました。楽しかった遊園地の思い出、遠足のお弁当……そんなことが次々と夢のなかにあらわれてきました。男の子は楽しい気分になりましたが、突然タンスの下敷きになったお母さんが出てきました。今度こそお母さんを助けたいのに、なぜか足がガクガクふるえ、体が動きませんでした。タンスの下敷になってぐったりしているお母さんが動き、にっこりと笑いました。男の子はよかったと思うと同時にこわくなりました。そう思っているうちにタンスは消え、お母さんの傷も消えていきました。いつものお母さんの姿になりました。お母さんは男の子の方に歩いてきて、そしてぎゅっと男の子を抱きしめました。
「たっくんが助かってよかった。すごくこわかったね。ママがいるから、もうだいじょうぶよ。ママの姿はもうたっくんには見えないけど、ママはずっとたっくんの側にいるからね」
男の子はお母さんにしがみつきました。お母さんのいい匂いがいっぱいしました。かぼちゃくんのケーキの欠片が、おなかのなかで燃え始めました。かぼちゃくんの火では、火傷はしません。それは心を温めるものだからです。
男の子は朝になり目を覚ましました。お母さんの夢をみていて、涙を流しながら寝ていました。実は、男の子はちゃんと知っていました。もうお母さんがいなくなってしまったことを……。お母さんの夢は、本当にお母さんに会えていたような気がしました。お母さんが会いに来てくれたようでした。お母さんが守ってくれたこと、そしてこれからもずっと側にいてくれること、自分だけが助かってしまいうらんでいるかもというこわさもなくなりました。
男の子の心のなかで、火がこうこうと燃えています。その火は、強さの火でした。かぼちゃくんは、お母さんの心を届けるのと一緒にやさしさの火を届けました。そして、小さな火種を男の子にプレゼントしたのです。お母さんのやさしさの火が燃え移り、男の子の心のなかで強さの火となりました。
男の子は一緒に避難してくれたおばちゃんに、
「おばちゃん、おはよう」
と言いました。おばちゃんの目が大きく見開きました。そしてにっこり笑顔で、
「おはよう、たっくん」
とおばちゃんは言いました。おばちゃんの顔にも笑顔がもどり、男の子の心はさらに温かくなりました。
それを見届けたかぼちゃくんは、
「よっこらっしょ!」
とまた大きな袋を背負い、夢のすき間にはうようにもぐりこんでいきました。
次は、誰の夢に入りこんでいくのでしょうか……。かぼちゃくんは、心を届けるためケーキの欠片を持っています。そう、ケーキの欠片のなかに、心を、思いを詰めこむのです。
かぼちゃくんの本当のお仕事は、いろんな人の心に火を灯すことです。勇気の火、希望の火、平和の火……。でも当分の間は、心を運ぶ宅急便屋さんもするつもりです。
「いつも笑顔を忘れず、幸せの鍵の火をつけてあげられますように!」をモットーにして、かぼちゃくんは夢から夢へ渡り歩いています。
とっても温かいコメント、どうもありがとうございます☆彡
読んで下さり、感謝です。
かぼちゃくんは、心やさしい妖精さんです。
忙しくお仕事をしていることと思いますが、心を運んでいますので、
とても丁寧に取り扱っています。
深く傷ついた心に届きますように、祈っております。
このお話しを読ませていただき涙しました
心のやさしいハルさんだからこそこのお話も書くことができたのでしょう
今被災地で怖い思いをしている子どもたちに聞かせてあげたいです