二人が出会ってから、何年の日々が過ぎただろう。
色々と制約の多いあの頃の事が、記憶の中では一番鮮明に残っている。
男女交際の校則を無視して、うららと付きあった高校生活。
見つかれば退学処分は免れない、そんなギリギリのスリルを楽しむかのように。
週末のデートをするために必死で勉強したあの頃。
一緒に過ごす時間が長くなればなるほど、離れている時間が苦痛になっていった。
夜の夜中、
会いたくてうららの家の前まで行き灯りのついた部屋を見ては声もかけずに帰った。
緊張しながら続けた秘密の交際の日々、てっは多分一生忘れないだろう。
今こうして地平線の彼方まで広がる真っ青な空の下、
障害物なんて何一つない大地をジープでぶっ飛ばしている瞬間さえ、
何かの弾みであの頃のうららの澄ました笑顔や怒りの顔を思い出す事がある。
その弾みと言うのは、うらら自身の風になびく黒髪や広いおでこ、
今ではすっかり日に焼けた張りのある素肌なのだが。
ハンドルを握る手が緩みかけ、口元に笑みが浮かんだ。
まったく、あの頃には想像もしなかったょ。
てっとこうして日本を出て、しかもアフリカでレンジャー何かになるなんて。
動物好きで正義感の強いうららは、自分の人生を自分で決める決意をした頃から、
野生動物を守るために何か役立ちたいと考え始めていた。
そしててっもうららと長い時間を過ごすうちに、うららの考えに賛同するようになっていった。
双方の親の猛反対はそれは凄真じい物だった、
反対を押し切り私達はこの地にやってきた。
隣の助手席のうららを見ると、
地図と双眼鏡をしっかりと握りしめて目だけでてっを見ていた。
「てっ、しっかり前見て運転してょ。
こんなところで事故なんか起こしたら冗談じゃ済まないんですからね」、
「どうやって事故るんだょうらら、こんなに何にもない所で・・・わ!! 」。
大きな石で車はリバウンドした、
シートベルトをしていたので車から投げ出される事はなかった。
「馬鹿ねー、道が悪いんだから注意しなさいょ」、
「悪い、悪い、気をつけるから」。
うららは相変わらずだ、歯に着せぬ喋り方は変わっていない。
強烈な日差しの下で一日じゅう駆けずり回りながら、
場合によっては何日もキャンプ生活を強いられる生活なのに、
そのおでこは少女時代から変わっていない、てっのくるくるの髪の毛も昔のままだ。
「止めて、サイの群れよっ」、
乾いた土煙をたてて、急ブレーキでジープは止まった。
すかさずうららは双眼鏡を目にあて、てっにメモをとるように指示を出す。
「左耳に赤いタグ、カメリアの群れよ。
総数に変化なし・・・じゃない !! 、子供がいるわ」、
弾んだ声でうららはてっの目に双眼鏡を押しあてた。
確かに群れの中に、まだ生まれてすぐの赤ん坊のサイが交じっている。
「よかった、群れを移動し始めた時心配だったんだ、ちゃんと定着してくれたのね」、
「元気に駆け回ってるぜ、あの群れもこのまま増えてくれればいいんだけどな」。
「増えるわよ、私達そのために頑張っているんでしょ」、
そこまで言ってうららは黙りこんでしまった、てっの目に双眼鏡を押しあてたままで。
「おぃ、どうしたんだょ。双眼鏡・・・痛いんだけど」、
声をかけても返事はなく、なんだかわざと押さえつけているみたいだった。
じっとしているのに我慢が出来なくなって、
手で双眼鏡をどかそうとした時ようやくうららが口を開いた。
「ところで・・・私達もそろそろ家族が増えたらいいと思わない?」、
その一言でてっは硬直した。
言葉をなくして凍りついてしまったてっを見てうららは慌てて言葉を投げた、
「ま、まだ、決まったわけじゃないわょ、
ただ次の休暇の時にチョット検査に行こうかなーって」。
てっはうららの太ももに抱きついて抱えあげた、「おめでとう・・私の赤ちゃん」。
アフリカの空の下、盛大な歓声が響き渡るかのようだった。
満面の笑顔でてっはうららを見つめた、
うららは顔を真っ赤に染めながら、蚊の鳴くような声で恥ずかしそうに呟いた。

「馬鹿ねっ、もぅ・・・・大好きよ」。