●八月十八日
書こうかどうか迷ったけど、書きます。
三日前、渋谷のセンター街を綺麗な若い女の子と歩いていましたね。
私は哲君の事は信じているけど、とても不安です。
一日中一緒にいられるわけじゃないので、私の知らない哲君がいてもあたりまえ。
でも、やっぱり不安です。
これってヤキモチですか?。
私は哲君の事が本当に好きです、だから、すごく苦しい。

●八月二十一日
あれは友達の彼女だよ、駅前でバッタリ会っただけだょ。
ただそれだけの事だからね、なんでもないょ。
どうしてその時声をかけてくれないのさ?、、
そすれば何でもない事すぐわかったのに。

●八月二十五日
もちろん、哲君の事信じています。
でも、もし哲君が私の立場だったら?。
私が哲君の知らない男の人と歩いているのを見かけたら、
それでも声を掛けられますか?。
どう思います。
あの日、哲君は家の用事があるって言っていたじゃない。
そう聞いていたから、余計に不安になったの。
不安になればなるほど、想像って膨らむものなのですね。
悪い事ばかり考えてしまいます、こんな経験哲君にありますか?。

●九月一日
初めてだね、あんな別れ方したのは。
何も言わないまま帰ってしまうだもん、驚いたょ。
次の約束もしないまま別れるほど不安な事はないね。
近頃よくケンカするようになったと思わない?、どうしてだろう?。
今度この日記帳を、蘭子が受け取ってくれるかどうか不安です。

●十月三日
今日ネ哲君といる時、ものすごく嬉しい事があったの。
なんだかわかる?。
ヒントは大沢君に会った時です、わかったかな・・・・。
私の事彼女だょって紹介してくれた事、ものすごく嬉しかった。
私は哲君の彼女何だって思った、変かな? 。

●十一月九日
何かが変わりそうで、なんだか怖い。
人は一人では生きていけないのに、一人になりたがるのはどうしてだろう?。
いつもと変わらない明日があるのは幸せか?、何処まで行けばゴールなのか?。
俺は本当に俺なのか?、
本当は全然別の俺が本当でここにいる俺は偽物かも知れない。
俺は何のために生きているんだろう。

●十二月十六日
この日記もよくここまで続いていますね、
今日から三冊目です。
私、昨日前の二冊を全部読みなおしました。
今まで色々あったけど、これからもキット色々あるんだろうなって思います。
この三冊目が終わっても、ずっとずっと一緒にいられますように。

茶封筒には三冊の日記帳のほかに、一枚の便箋が入っていた。
そこには丸文字から大人びた表情に変わった蘭子の姿があった。

お元気ですか、私は元気です。
今では五歳と二歳の男の子を持つ二児の母です。
先日車の中で聞いたラジオから、
以前あなたがよく聞いていた「天体観測」が流れていました。
なんだかものすごく懐かしくなり、
実家に仕舞ってあった日記帳をとりだして読んでしまいました。
読み返すうちに、あの頃の思い出が蘇ってきました。
覚えていますか大沢君の事、彼からあなたが今LAで頑張っている事も聞きました。
そして、そちらの住所を聞きこの日記を送る事にしました。
今更何て言わないでね、二人はそれでいいと思ってたんだから。
これからのご活躍を遠くから応援しています。
蘭子より。

僕は大人びた文字の向こうに蘭子の顔を思い浮かべた、
それは二児の母親になっても僕の知っている、あの日のままの笑顔だった。