夢の中で私の前に、優しい目をした女性が立っていた。
どこかで会ったような気もする、遠い昔、どこかで。
でも思い出せなかった・・・・。

夜が着飾る季節がやって来た、毎年この季節になると思うのだけど、
これだけのイルミネーションをいつ飾ったんだろうって。
冬の夜は駆け足で過ぎていく、キレイな夜の光とともに。
新しい年を迎えて数少ない年賀状に混じって小包が一つ届いた、
茶封筒の裏を見ると蘭子とだけ書いてあった。
すぐに解った私はゆっくりと茶封筒を開けた、
中には古びた日記帳が三冊、表紙には丸い文字でR＆Tと書いてある。
その文字を見たとたん遠い記憶がゆっくりと輪廻を現わすようだった、
長い長い一本道を、十年前の僕が走り寄ってくるのを見た気がした。
社会人になりたての頃、私を指導してくれた先輩・・そして彼女。
懐かしさと恥ずかしさを同時に噛みしめて、一冊目の日記帳をめくった。

●四月五日
配属も決まりそろそろ仕事のも慣れて来たようですね、
哲君が書いてくれた家の事や家族の様子でまた一つあなたを知る事が出来ました。
私達付き合い始めたばかりだけど、
この日記のおかげでいつも言えない事は書けるから、よかったね。
絶対、絶対、これからも続けましよう。
では、今日は私の家の事を書きます。
私の父は小学校の先生だって事知っているよね、それが頭痛のタネ。
親が学校の先生だと子供は頭良くて当然何て思われてる、
私なんてそんなに勉強出来なかったからいつも怒られてばかりで。
特にうるさかったのがスカートの丈とか服ね、
スカートなんて今じゃ短いのが普通なのに・・「普通って何だ!!」っていつもどなってた。
大体みんなそんなカッコなのに私一人だけ違うカッコしていたら、
まるで醜いあひるの子にみえちゃうょね。
今は大人になったから少しおさまったみたいだけどね、じゃ、またね。

●四月十二日
音楽が好きでよくCDを買います自分でも少しギターをね、
今日もバンプオブチキンのニューアルバムが出たので買ってきました。
音楽を聴いていると時間を忘れます、これもCD-Rに焼いてあげるね。
後は少し古い音楽も好きです、イャかなりかな、
でもまだそのミュージシャンは歌っているからね現役何だよね。
こないだFMラジオからその曲が流れていてね、すぐにPCでコピッちゃったょ。
優しい歌声だったな～、今度蘭子さんにも聞かせるからね。

●四月二十一日
余計な事一つ書きます。
哲君も一生懸命書いてくれるのは嬉しいんだけど、
鉛筆で書くのだけはやめてくれない、これは私の勝手なお願いでした。
あ!!、さっきは御馳走様でした、夜あそこのお店に行くのは初めてです。
昼間にはよく行くんだけど、夜行くと全然感じが違う気がする。
暗くて別世界にいるみたいで、月の上でお酒を飲んでる見たいだったょ。
哲君もお酒飲み始めた時は驚いたけど、まだ未成年でしょ。
でも今日は特別な日って言う事で許してあげる、
実はお酒飲みたかったんだ嫌な事があってね。
仕事で計算ミスしてしまった、まだ部長までで止まったからよかったけど。
あと少しで大事になる所だったんだ、今日はありがとうね。

●四月三十日
いつも思うけど、いざ鉛筆を持っと何を書いていいのか解らない。
でも、何か書かないと交換日記にならないので何か書きます。
今、思えば蘭子さんが僕と付きあっていると言う不思議さ。
僕のそばに蘭子さんがいる事態が不思議に思うのですけど、
言葉うまく言えないんだけど・・・・。
うーんっとなんだかまとまりそうもないのでこれで終わりにします。

●五月三日
いきなり旅行に行こうって、もう・・驚いたょ。
車まで借りてきちゃってさ、断れないジャン。
あ!! 、さてはそれが狙いだったな。
何もしないって事でOKしたけどね・・・、
まさか本当に何もしないってありえないでしょう。
女はね、泊りに行くのにはそれなりの覚悟を決めていくんだょ。
もぅ、最低・・・知ーらなぃっと。

●五月十六日
ごめんね、僕も本当はあの晩一睡も出来なかったょ。
隣に蘭子がいるのに何も出来ないくて歯痒いたらなかったょ。
ホントはね、抱くつもりでずいぶん前から計画していたんだ。
だから旅行のあの日だって、蘭子の予定聞いていて知ってたんだ。
でも、いざとなると何だろう・・・好きなのにごめんね。