ホットミルク
- カテゴリ:自作小説
- 2009/03/29 13:28:21
「いてっらっしゃい、あなた。」
「ああ。」
「あなた、お茶いかが。」
「ああ。」
「ねぇ、ちょっと聞いてよあなた。」
「ん~?」
「今日お隣の奥さんがね・・・。」
「ああ。」
夫の態度はいつもそっけない。昔から口数が少なくて一見無愛想な人なのはわかっている。
でも最近、夫は自分をうっとおしく思っているんじゃないかってときどき、心配になる。
結婚して2年。そろそろ私たちも倦怠期なのかしら。
今日は休日だけど、いつものように起きた。けど、なんだかだるくて寒いような気がした。
「どうした?」
「あ、ううん。なんでもないの。」
夫には迷惑かけまいと平気なふりをしてご飯を作ろうとした。けど、体は思ったように動かない。
「お前、俺が気がついていないとでも思ったか?」
「え?」
「飯はいいから、さっさと寝てろ。」
夫はぶっきらぼうにそう言って、私を無理やり寝室に押し込んだ。
台所の方から、何かを洗っている水の音、軽快な包丁の音、ガスコンロに火をつける音が聞こえてくる。
自分で何でもこなしてしまう夫。ときどき、自分がちょっと情けないと思ってしまう。
わずかな隙間から、鍋で何かを暖めている夫の背中が見える。
「入るぞ。」
「あ、はい。」
夫の持ってきたお盆の上には、はマグカップに入った暖かいミルク。
「蜂蜜を入れたホットミルクだ。風邪のときにいいって同僚から聞いてたから。」
「あら、ありがとう。」
「ちゃんと飲めよ。」
ミルクを飲んだら温かくなった。体も心も。
「あなた、ありがとう。」
「べ、別に・・・。」
いつもと変わらない素っ気無い返事。でも、夫はどこか照れくさそうだった。
夫は、私が風邪を引くと、いつも温かいミルクを入れてくれた。結婚して20年間、変わらなかった。
ある日、風邪を引いて寝込んだ。
でも・・・、部屋の隙間から見えた背中はもう見えない。見えるのは寂しさ漂う誰もいない台所。
夫は1年前、突然帰らぬ人となってしまった。
あのときの温かさはもう戻ってこない。あの夫の姿はもう消えてしまった。
「お袋。大丈夫か?」
「ん?大丈夫よ。」
「無理すんなよ。ちょっと待ってろよ。」
そう言うと、息子は台所で何か作業をし始めた。お鍋と牛乳を持っているのが見えた。
あ、あの姿・・・。
「お袋。牛乳温めたよ。ちゃんと蜂蜜も入っているぜ。」
「あら、ありがとう。」
「お袋や俺が風邪引いた時、親父、いつもこれ入れてくれたもんな。」
そうか・・・。夫の姿も温かさも、消えてなんかいない。今もちゃんとここにあるんだ。
ホットミルクに、一粒の涙が落ちた。
わたしもあったかいお話を書こうかなとおもいますw
ありがとうございましたw
ほろっときました(; ~ ;)
素敵なお話、ありがとうございます(*^ ^*)
ホットミルクが飲みたくなりました♪
(実は暖かい牛乳はちょっと苦手なのですが(^^; )