Nicotto Town


人生カカト落とし


『ニコチアナ』 川端裕人

『ニコチアナ』川端裕人 角川文庫、実は少し前に読み終えてました。

『夏のロケット』『The S.O.U,P.』など、この作者はSF的な題材をあまりSFっぽくない手つきで扱う印象があった。
(子育てなど、そうじゃない題材も書いているのも承知している)
相変わらず平静な語り口ながら、今回はこの本のなかで言う「科学の言葉」と「魔法の言葉」で言えば、やや「魔法の言葉」寄りに感じた。

ながく読んでみたかったので、大幅改稿の末文庫ででてくれたのはありがたい。
……けどなぁ。

個人的な問題で、正直読んでて辛かった。

自分自身ではタバコは「不快」ぐらいだが。
家族に嗅覚過敏気味で蛇蠍のようにタバコを嫌う人間と、元小児ぜんそく持ちがいる。
元喫煙者の実父は肺に影が認められ、きわめつけ、医者に止められるまでヘビースモーカーだった祖父は、この話のデュークと同じ肺気腫になり、苦しんで、苦しんで、苦しんで、亡くなった。
(作品中のデュークは説明される病状に対して、行動が元気すぎる気がする)

なのに、違法な物でもないのに体験せずに文句言うのもどうだろ、というのでタバコを吸ったことがある、一晩だけ。
ふかすくらいなら最初から吸わないので、この本で言う「肺に落とす」吸い方で。
翌朝、貧血でブッ倒れた。
医者にかかるレベルの冷え性はタバコ吸っちゃいけないらしい。
いや、じーさんのあの死に際見てて喫煙するのもどうかと思うのだが。

とはいえ、中毒じゃないかといわれたコーヒーの量をやっと世間並みにもどしたはいいが、今度は酒量が増えている私に、他人の嗜癖についてどうこういう資格はないだろう。
(にしても、自分の嗜好で他人様の口にカフェインやアルコールを流し込んだことはないとは主張したいが)

この話は、作者流の文明論・文化論なのだろう。
タバコに生じた疫病の真相をさぐり、無煙タバコの特許を得るための旅の過程で、タバコの来歴とその発祥の地の人々の苦難の歴史が浮かび上がる。

タバコにまつわる問題は、煙が存在することによって、どうしても個人と周囲・社会の関わり方の問題になる。

喫煙は文化だ。
しかし、他者に不快と現実的な被害を与えもする。
キャリー・ネイションのようなヒステリックな反喫煙運動はいただけないが、とはいえ身近での喫煙は正直なところ勘弁して欲しい。

要は関わり方の問題なのだろう。
タバコと人との間以上に、人と人との。
物語での文明同士が出会った時の収奪する側・される側の関係は、この社会にもあふれる人間同士の関係の拡大版だろう。

完璧でなくとも、心豊かでいられる未来を。
物語でおこなわれた「試し」は祈りのような結末に着地した。が、その結果はここからの人のありようで、いくらでも違ったものになるのだろう。
考えれば考えるほど、一筋縄でいかない話だった。

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2009/03/28 01:14
suzuyoさま
愛煙家・嫌煙家、どちらにしても無理が通れば道理がひっこむ、みたいな行動はたまったものではないですね。
この本が単純な「タバコは悪」みたいな話じゃないことだけは確かです。

山鳥さん
ほぼこの言葉を意味する内容を求める言葉が出てきます。
寛容さって、でも存外難しい物のような気もします。

ながつきさん
川端裕人さんの落ち着いた筆致はノンフィクションも書く人だからかも知れませんね。
私は根っこに近いところに〈ゲド戦記〉がある人間なので、どうしても『The S.O.U,P.』の、
と思ってしまうのですが(モチーフになってます。ラストは圧巻でした)、
普通に人に勧めるなら『川の名前』かな。少年小説の傑作です。
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2009/03/27 23:32
川端裕人さんは読んだことがなくて、クジラとかペンギンとかノンフィクションだけだと思っていました。
小説を書かれるんですねー。

文化とまでいかなくても、誰かにとって心地よいことが他の誰かには苦痛だということは、
喫煙だけではなく様々な嗜好や思想までも、全てにおいて同じですよね。
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2009/03/27 07:58
このブログの一文に妙に惹きつけられまして・・・
>完璧でなくとも、心豊かでいられる未来を。
という言葉に、どんな選択をして、どんな道を歩んでいようと、いいのかな?という気分のおおらかさを頂いた気がします。
特に、計画たてて、実行できずに自己自滅を繰り返す身としては・・・
完璧を目指さずとも・・・ほどほどの自分と向き合えるように
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2009/03/27 04:16
こんばんわ。
なんか気になったので駄文失礼致します。

ホントに、むずかしいですね、、タバコという嗜好品は。
自分は8年くらい喫煙してて(学生時の風潮じみた つまらない理由からです)
1日10本程度。禁煙は節約の為に開始、 代理のクロレッツガムのほうが高かったです。
自分で選んでたんで しょうがなかったです。
あと^^ 珈琲・紅茶増えました。


今は吸いませんし、禁煙席に座ります。受動もできればしたくは無いです。
ただし喫煙者を 毛嫌いする風潮には 安易に乗りたくないなと思ってます。


近年の似非エコブームに乗っ取ってか
喫煙者が猛烈に批判を受けたり、一方でお洒落感(ファッション性)を煽って値上げ値上げとか
流れがどうしても 気持ちわるく消化しきれてません。。


書評を拝見して興味がわきました。
気になるのでちょっと探してみようと思います。ありがとうございます♪




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