船上で
- カテゴリ:自作小説
- 2011/01/09 16:52:37
「うひゃー広いっすねー。海って。」
青い大海原の上を1台のクルーザーが走っていた。
「何いってんのよ、今さら。当り前じゃない。」
「うん!広いねーおっきいねー!軽く感動を覚えるよ。」
船の上で3人の男女が話していた。
「もう・・・無視しないでよ。」
「ごめんごめん。いやホント広いなーって思って。」
「これきっと深いんですよねー。落ちたら溺死しますね。」
呑気な顔で物騒なことを言う青年に、2人は同意した。
「きっとこの下には、たくさんの人が眠ってるんだね。」
「そして、目覚めることはないのよね。」
「何かかっこいいね!」
はたから見ると家族旅行の楽しいひと時のようだが、3人とも考えていることは旅行どころではなかった。
「どうやって沈めればいいのかな?」
「足に石でもぶら下げとくんですよ。」
「何か容器に入れるのもいいわね。」
周りで人が聞いていれば、警察にでも突き出されそうな会話だが、好都合なことに人はいない。いや、いないからこのような会話をしているのだ。
「っていうか、船のおじさん港に置いてきちゃってよかったの?」
「いいのよ。お金置いといたでしょ。」
「そっかぁ!」
納得していいのかと誰もがつっこみそうだが、残念なことに、3人の中に訂正するものはいなかった。
「んーあれ、何ですかねぇ?」
「え?何かしら?」
「あ!あれ人だよ!助けなきゃ!」
先ほどまでの会話と、大きく矛盾している意見を述べながら少女が海に飛び込もうとした。
「ちょっ、ちょっと待ってください!ボス、俺が行きますって!」
そう言いながら、青年は素早く服を脱ぎ、海の中へと飛び込んだ。
季節は冬とまではいかないが、そろそろ衣替えの時期だ。ただでさえ肌寒いというのに、
海に入るなど、無謀という行為以外の何物でもなかった。
しかし、残された2人は心配する様子など全くなく、
「飛び込んだわねー」
「飛び込んだねー」
などと呑気に話していた。