■近代文藝之研究|研究|美學と生の興味(6)
- カテゴリ:その他
- 2009/03/21 06:58:57
■近代文藝之研究|研究|美學と生の興味|上 生の哲理|二 (3)
隨つて理想とはたゞ我等が最も望ましいものゝ總名たるに過ぎぬ。其の中から特に要望の源たる一概念を明に知識し出ださんとすれば、忽ら茫漠として方を失ふに至る。理想が別に高い所にかゝつてゐて、我等が先づ之れを認識するによつて、こゝに要望の標準が出來るといふ順序では無いやうに見える。無いやうに見えるものを有るやうに説かんとする結果、かゝる理想説の根抵には常に直觀といふが如き非説明的の遁路が穿たるゝ。然り、之れを遁路と呼ぶも差支あるまい。蓋し知識の要求に應ずるものである限り、知識の説明を具してゐなくては有るも無いも同じである。説明は出來ぬが兎も角も理想といふ一物があつて、同じく説明は出來ぬが如何にかして我等が之れを認識するといふのでは、知識にはならぬ。さらばと言つて夫の有無・黒白の認識と等しく、根本の事實だから仕方がないと言ひ去ることも、此の場合には許されぬ。
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*註1:隨つて理想とは
原本ではこの文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。
*註2:過ぎぬ
「過」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註3:要望・要求
「要」の俗字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/you.jpg
「望」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/bou.jpg
*註4:概念
「概」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/gai.jpg
*註5:知識し・認識・知識
「識」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/shiki.jpg
「認」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mitomeru.jpg
*註6:忽ら
「忽」の訓が「たちま(ち)」だとすると、送りの「ら」は「ち」の誤植となるが、ちがう訓があるかもしれず、原本のままとした。
《追記》「忽」の訓は「やお(ら)」ではないかと思われる。「忽ら」の用例は明治期の他の作者作品でもいくつか見つかったものの、その訓をルビ表示されているものは見つからなかった。「やおら」は元来「おもむろに」「ゆっくり」の意だが、「急に」「いきなり」の意での用例も近代に入って増えてきている(現代では後者の意の用例がまさる)。抱月がこの字を当てたのも、本来の「やおら(=ゆっくり)」ではなく、「すぐさま」「忽然」という意味の「やおら」であることを示すため「忽」としたのではないか。なお本来の「おもむろに」の意の「やおら」には、当時は「徐ら」の字を当てるのが一般的だったようだ。
*註7:高い所
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg
*註8:説かん・理想説・説明
「説」の旧字体。「言」+「兌」。
*註9:遁路
「遁」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註10:具して
「具」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/gu_sonaeru.jpg
*註11:有るも無いも同じである
原本には「同じてある」とあるが誤植と思われるので改めた。
*註12:黒白
「黒」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/koku_kuro.jpg
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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1
(2014/05/25/初校)