『Not guilty but…』(16)
- カテゴリ:自作小説
- 2010/12/07 04:48:51
『Not guilty but not innocent』(承前)
延々と続くそのシーンが一番辛かった。おそらくは薬物のせいで敏感になった感覚が襲ってくるので。ビデオカメラの存在を意識の端に保ち、シャッター音を数えてなんとかやり過ごした。
「……それで、その後は、どうしたの?」
「そのあと……?」
「どうやってそこから逃れたの?」
ああ、そういう意味か。
「逃れた、っていうか……何回目かの行為の後で、軽く意識を失ってたんだと思います。気がつくと、ひどく喉が乾いていて。……枕元にペットボトルがあるのが見えたんですが、手を出せなくて。……冷蔵庫の飲み物も、信用できなくて、バスルームの洗面台で水を飲んで。口の中がひどく苦くて、ちょっと飲みすぎたかと思います。それから、ベッドのところに戻ってくると、相手の男がケータイを握りしめたまま眠っていて。……今なら取り上げられるだろう、と」
「で、そうしたのね?」
「……はい」
「それで、写真を消したの?」
「そうしようとしました。でも、ケータイを開くと、ネットにつながっていて、そこに……」
「そこに?」
「……写真がアップロードされていました。ケータイ本体の写真だけを消したのでは意味がありません。どこかのサーバーに納められているそれらも、全部、削除しないと」
「そうね」
「それに、そこにアップされてるのは、静止画だけでした。別のところに動画がアップされていないとも限りません。それで、『お気に入り』に登録されているサイトを調べました。少なくとも、三カ所はそれらしい名前のサイトが登録されていました。それから、アドレス帳の方にもサイトのアドレスは登録できる、と気がついて、開いてみたら……多数の女性の名前が。……写真も一緒に」
婦人警官があきれたような溜め息をついて首を振った。
「……女性の敵だわね。……あ、今のは私の個人的な感想ですからね。記録しないで」
彼女の視線が後ろにぶれる。今のは書記に言ったらしい。
「…で、その後は?」
「ケータイのプロフィールで名前を確認しようとしたんですが、できませんでした。手が震えて、バスタブに落としてしまったので」
「バスタブ?」
「バスルームで見ていたんです。いつ目を覚ますか判らなかったので。……しばらくぼうっと見ていたんですが、慌てて拾いあげました。……開いてみたら、どこかショートしたらしく、電源が落ちていました。……たぶん、疲れていたんだと思います」
疲れていたのは確かだけど、それ以上に、ケータイを見て決意を固めたのだと思う。
こいつ、許せない。生かしておけない、と。
「拾い上げた携帯電話は、どうしたの?」
「バスタオルで包んで……元あった場所に戻した、と思います。……つまり、あの男の手元に」
「で、その後は?」
「眠い目を擦りながら、あの男の持ち物を探りました。……行為の最中に、執拗にこちらの名前とか、住んでるところとか、仕事とか聞こうとするのに、自分の事は『名刺を渡した』で済ませるので。その名刺の名前もあまりにウソくさくて」
「ウソくさい?どんな名前だったの?」
「確か、『日野本 太郎』だったと思います。……一郎、だったかも?」
テーブルの上に、指で字を書いて説明する。
「まあ、今どきの名前では、ないわね。……それで?」
「結局、名前の判るものは、名刺も含めて見つからなくて。代わりにポケットの中にピンクとブルーのプラスチック製のピルケースが」
「ピルケース……」
「どちらのケースにも、小さなしきりに一粒づつ錠剤が入っていたんですが、ブルーの方にはさらにしきりとふたの間に小さいジッパーバッグが入ってて、『試供品』って書かれたピンク色の紙と、大きめの錠剤が一粒、その中に」
その紙にはポップな書体で、『毎度ありがとうございます』という挨拶とともに、二十回目の注文特典で試供品を同封した、と書かれており、試供品の効能と、つぎは三十回目にまた別の試供品が同封される旨が記され、今後ともよろしく、という挨拶で締めくくられていた。
どうやら通販で売られているらしいその種の薬の、お得意様サービスということのようだ。
「その試供品を、あの男に飲ませました。ペットボトルの水で。……もしかしたら、それが体質に合わなかったのかもしれないし、それ以前にあの男が自分でほかの薬を飲んでいて、飲み合わせが悪かったのかもしれません」
薬の効果を確かめるために、相手の体を刺激した。毛布越しに自分の体重で体を拘束し、相手からは手出しができないようにして。
薬はよく効いたようだった。太腿やおなかを軽く撫でるだけで反応した。最後まで面倒を見てやるほどの親切心はもはやなかったが。
「……それから?」
「……いつの間にか、また眠ってしまったようです。次に目が覚めてからの事は、先程の刑事さんに……」
続きがめちゃめちゃ読みたいです!
ゆっくりペースで良いんで、続き絶対アップして下さいね~♪
…もっとスローペースで読めば良かったかも。w