うららは今日から夏休みだった、まだ半分夢の中だったがお母さんの声で起きた。
目を覚ますとすぐに脇に置いてあった帽子をとってかぶった、
帽子は水色で目にも鮮やかな綺麗な色をしていた、帽子の好きな女の子。
「またすぐ帽子、顔は洗ったの　? 」、うららはいっも帽子をかぶっていた。
今日から夏休みの旅行だ、お母さんの友達の家はキレイな海の近くにありそこに行く。
電車で一時間は走ったろうか、窓から海が見えて小さな駅についた。
暑い日だった、ホームには木陰もなく照りつける太陽が眩しかった。
海風は心地よく吹いていたが、思ったより風は強くうららは帽子を押さえた。
帽子には茶色いリボンが付けられて可愛い花束が結んであった、
眉にかかっている長い前髪が風が吹くたびに揺れてひたいに汗がにじんだ。
「てっちゃん迎えに来てくれてるかしら」お母さんの友達の子供らしい、
改札口を出るとシマシマの野球帽をかぶった男の子が待っていた。
「あなたてっちゃん、てっちゃんでしょう」お母さんは声をかけた、
男の子は照れるようにおじぎをした、帽子の好きな男の子。
うららは瞳を大きくひらいた、黒いビー玉の様なてっの瞳が帽子の下で光っていた。
二つの帽子どうしが挨拶をしているようにも見えた、
てっは荷物を受け取ると背中を向けて歩きだした。
てっの家は、お父さん・お母さん・おばあさん・おじいさんの五人家族だった。
にぎやかな家族だった、夕飯はみんなでワイワイしながら食べた。
おぜんの上にはお寿司にから揚げサラダとごちそうが並んだ、
大人達はビールにお酒と楽しく飲んでいるうららはジュースを飲んだ。
てっは野球帽をかぶったまま食べている、うららも帽子をかぶったまま食べていた。
「てっ ! 」「うらら ! 」大人達は帽子を脱がそうとした、
「てっはうららちゃんの前だからイイかっこしてるんだ」、
「うららもてっちゃんの前だからなの」そんな大人のからかいにも二人はこたえなかつた。
大人はあきらめてもう何も言わなかった、庭先で夏の虫が笑っているようだった。
次の朝、海は穏やかだった水平線の向こうには大きな入道雲が広がってる。
うららは素足で下駄のまま砂浜を散歩した海の水は思ったより冷たくひんやりしていた、
足首の白さが波の泡に揺れていた。
てっは少し離れたところで海に小石を投げて遊んでいた、
小石は波の間をくぐったりその上を飛び跳ねる様に踊っていた。
うららも真似をして投げて見た、小石は飛びあがりもしないで波に消えた。
首をかしげて見ていると、うららの方にてっがやって来た。
うららは心が・・・ドキ・ドキ・ドキとなっているのがわかった、
心に中の小さいときめきはうららの水色の帽子にも伝わっていた。
てっは平らな石をうららに渡した、これで投げるとピョンヒョン跳ねるんだょ。
うららは言われたとおりに投げて見た、すると小石は踊るように波の上をすべっていった。
その日うららのお母さんは急な仕事で戻る事になった、うららはもう少しいたかった。
「うらら一人で大丈夫なの」「うん、大丈夫」終わり次第迎えに来るからネ、
それからうららとてっはずーっと一緒だった相変わらず帽子をかぶつたまま。
朝は小石を投げて遊び、昼は波乗りや波くぐりで遊んだ。
砂浜から見ているとシマシマの帽子と水色の帽子が波の間から浮き沈みしていた、
帽子と帽子が話をしているようだった。
帰りがけにお母さんどうしは話した「あの二人どうして帽子ぬがないのかしら」、
「そぅ、変ねー寝ている時は脱いでるくせにねー」。
うららとてっは相変わらず帽子をかぶったままだった。