【お題小説】ちくわ鍋
- カテゴリ:自作小説
- 2010/11/30 00:17:41
12月24日まであと1時間と迫った時間にバイトから帰宅した。
バイトのシフトで明日はバイトは休みだ。何も予定が無いのが泣ける。
こうなりゃ、ケーキ売りの飛び込みバイトとか無いものかと思案していたら、安アパートの乾いたチャイムが鳴った。
『よ!バイトおつかれさん』
右手に酒ビン、左手にコンビニの袋をもったヤツがニヘヘと立っていた。
『なんだ、お前か。酒を持ってきたのに免じて入ってもいいぞ』
『せっかくキミの好きであろう焼酎をもってきてやったのに』
『芋か?』
『いや、麦。俺ってば芋焼酎ダメなんだよね』
『お前なぁ、焼酎っていったら芋だろ?』
『じゃぁ、いらねーの?』
『誰も、飲まないとは言ってない』
そういって、ウチの六畳一間で暖房器具はこたつのみ、という部屋にヤツを招き入れた。
言っておくが、焼酎はロックか水割りだぞ?
『知ってるよ。ちゃんと氷を買ってきた。あと、ちくわ』
『ちくわ?』
『鍋ある?ちくわ鍋してやるよ』
そう言って、ヤツは雪平鍋に水を張り、ラベルのはがれかけた粒状の出汁の元を入れてコンロに火を付け、その中にコンビニで買ってきた竹輪を豪快にぶちこんだ。
『後は醤油をたらせば完成だ』
『どうでもイイがほんだしを家から持ってきたのか?』
『おう、大丈夫!賞味期限は昭和じゃないぞ』
『当たり前だ!昭和だったら俺らよりも年上のほんだしじゃねーか。あー、しかもちくわが7本ってどういう事だ!2人で食ったら1本余るじゃねぇーか』
『じゃぁ、いらねーの?』
『誰も、食わないとは言ってない』
そんなこんなで、ちくわをダシで煮込んだ、とても鍋とは言えない一品と一緒に二人は酒を飲み始めた。
暖かい食べ物は、それだけで美味いのだと思った。
そして、大西洋はあるのに何故、大東洋は無いのかについての議論と大学の北校舎にある柳の木には冬でもマフラーした幽霊が出るといった、実に有意義で全く生産性の無い会話をした。
気が付けば、午前2時をとっくに回っていた。
ヤツも自分の時計を見て呟いた。
『おお、もう日付が変わったな。乾杯しよう!メリークリスマース』
『まだ、イブだけどな』
安グラスのカチンとした音が部屋に響いた。
ぐびぐびとヤツは麦焼酎のロックを飲み干し、少し強めにグラスをこたつの天板に置き、ふーっと大きく息を吐いた。
しばらく、じっとしてた。会話が止まる。
『リコは…今日、リコは違い男と会うんだってさ…』
リコというのはヤツの彼女。いや、もう彼女だった女という事だな。
何度か会ったことはある。くるくるっとした可愛らしい女性だった。好みじゃなかったのでヤツと女を取り合う事は無いなと思った。
ヤツはニヘヘと笑って、続けた。
『振られちゃったよ~。泣けるぜ』
『お前がガンダムの話ばっかりしてたからじゃないのか?』
『してねーよ!でも、ディステニーは泣ける!』
『知らねぇーよ』
それから、ポツポツと自嘲ぎみに彼女との思い出を話し出した。
こっちも一緒に出かけたりしてたから、あの時そうだったなーなんて、それなりに会話が盛り上がった。
気が付いたら午前4時だった。
『やべぇ、俺って女々しいな。思い出話でこんな時間だぜ。くー悲しさ倍増~』
『そろそろ寝よう。酒が回ってちとふらつく』
『そうか。いやー俺はあんまり酔えなかったな。うん、まぁでも寝よう。…今日はありがとうな。おやすみ』
ニヘヘと笑って、ヤツはこたつの中にもぐりこんだ。
こたつの上はヒドイ有様だが、片付けは起きてからにしよう。どうせ、やることは無いんだ。
そう思って、ベッドに向かった。
鍋の中には冷えた竹輪が1本だけ残っていた。
眼が覚めたらヤツに食わせよう。
失恋した友の癒し方と癒され方は、やっぱりこんな温かさであって欲しいと、思わず物語りの中に入り込んでしまいました!(^-^)
いずれも学生らしいスタイルですね。
ちくわ鍋はどこかこう、貧しいイメージが出て、学生と言うとやはりお金の無いイメージがありますからね。
主人公の環境が滲み出していて、良い味が出てます。
絶妙な感じの会話が面白かったです。
こういったダラダラできる友達は貴重ですね。
最後の竹輪が印象的でした。
ステラの最期とシンの扱いが悲しかったです…。(感想じゃないですね…)
良いお話で、しばらくぶりに、心がほっこりしました。^^
こんな友達が欲しいな・・
今さらでけど。
若い時の事思い出しました。
それにしても、「ちくわ鍋」
怖いもの見たさに試してみようかな^^
こんな風景は目に浮かんでくるよ。
やば、誰かと話したくなってきた^^;
おもしろすぃ~w
早く続きが読みたいなぁ(´∀`*)
場面が目に浮かびます。
すごいですね@@小説家さんだ
やけ酒……泣けまふねぇ~~~~~(笑)ww 「シングルベル」よりは、マシかも!?(笑)ww
こういうお話は、男同士の友情って感じがホントに好きだな~って思います^^
弱っているとき、そばにいてくれるのが友達だよね。。。
くだらない会話も、ちょっとした本音も、気兼ねなく語り合えるのが友達だね。。。
なんて事を思い出せてくれて有難う~なお話です^^
いくつかあった会話の中で
『誰も、飲まないとは言ってない』
っていうのと
『誰も、食わないとは言ってない』
っていうので終わるのが、私にはツボでした~^^
2人のそれぞれの性格や気持ちや繋がり方が、伝わってきますね
良い話です。しゅーひさんがこんな小説を書くなんて。凄いですね。
実際はどうなんかなー。
ちくわがいい味だしてまんなあ~♪
あがた森魚とか、なんかそんな歌がきこえそう~?
結局 友達も予定がなく 寂しかったのね~
あーでも こういうのいいなw
ちくわ鍋には 憧れませんが こういう夜な夜な 二人で飲み明かす~ってのは
ちょっと いい感じ♪
ちくわ鍋 もしかして しゅーひが 好きなのか?w 違っww
くだらない議論で盛り上がり
つい朝までなんてありましたよね。
最後の一本は友のために
というのが泣かせどころ。