創作小説「雷獣」(3)
- カテゴリ:自作小説
- 2010/11/20 00:42:56
雷獣~復活遊戯~
はじめあき
第3話
王都から北方にある栄えた町。
中心より少し離れた郊外に風の法術士が集まる法院がある。
国には王都を中心として東西南北と4つの法院が存在している。
それはこの国の学校みたいなもので、地の東院は学術中心の学校。
水の西院は医術。火の南院は武術、風の北院は剣術。
また特別な《力》を有する法術士もいずれかの特性ある院に属し、勤めを果たしている。
そんな北院の、一般学生立ち入り禁止区域である本院が北院の長になったエンユの住まう生活空間。
「沙羅、手紙が来てるって?」
「エンユ、ようやく現れましたね」
書類が山積みされた机の向こうから、ため息をつきながらエンユに手紙を渡す沙羅。エンユより少し年上の落ち着いた青年。
沙耶と同じ珍しい灰色の髪をしている。
「西院のクルト様からのようですよ」
「数年前に、エンユ様と共に邪法士の組織を壊滅させたという?」
「今では四法院の法術士の中でも一、二を争う実力者と評価されていますね……」
数年前の事件とは、北山の雪が溶け出し、河の増水で南院地方に水害が起こった。
王都からの依頼で水の西院から北山へ派遣されて来た法術士のクルトと、様子を見に行ったエンユが出会ったのがその時。
原因が邪法士(法院に属してない術士)の策だと判明し、二人は協力して邪法士の組織をひとつ壊滅させた。
その時、北院の長だったジオラが命を落とし、後を継いでエンユが現在、長の位に就いているのである。
二人で協力したのに世間ではクルトばかりが有名になっているのにも訳がある。
正式に国から派遣されていたこと。
後の事後処理をすべてクルトに押し付けてエンユ自身が表に出ないように仕組んだからだ。
「俺は有名になりたくないからな」
エンユはそう言って手紙に目を通す。
「何と書かれてあったんですか?」
「新しい北院の長として一度も顔を見せていないから、顔見せくらいに来いってさ。今回の会議は西院で行うから」
「先代院長のジオラ様が亡くなって院長になってから、公式の場に行ったことないものね」
北院の長に就任してから数度あった会議も、代理として北院の学術長などを遣わしていたのだが。
「今度こそきちんと出席して下さい」
威圧感を与える沙羅の無表情。ちょっと考え込むエンユ。
そして側でなりゆきを見守っている戯加に視線を向ける。
「戯加、一緒に西院に行こうか」
「はい」
西院へ行くには森を抜けて行くのが一番の近道。
交通手段は馬車。それでも2日程かかる。
雇った西院行きの馬車の中でエンユと戯加は話をしている。
「何でエンユ様は会議に行くのが嫌なんですか?」
道中、不思議に思ったことを問う。
「うーん……」
考え込んだ彼をおとなしく待つ。
「俺が戯加のようにジオラ様に拾われたのは、知っているよな?」
「はい」
院では有名な話。
幼い頃に両親をなくしたエンユが先の北院長に拾われ、エンユがまた戯加を拾って育てたというのは院では公然とされ、資質のある者を育てる法院としては別に珍しいことではない。
「実は俺には、兄弟がいたんだ」
「兄弟がいたんですか!?」
「そう。しかし、ヤツと兄弟ってバレたら、行動が制限されそうだから知られたくないっていうか……」
「エンユ様って好き勝手仕放題ですもんね…」
小さく呟く戯加。
「剣に選ばれたのが運のツキかな」
戯加が持つ布に包まれた長い荷物。
中は北院が預かる聖具《剣》。
聖具が自ら託す者を選ぶと言われている。その選ばれた者が長の任を務めるのだが、最近は質のいい力を持った法術士自体が少なくなっていることもあり、聖具が人を選ばない場合もある。その時は先院長が長として勤めを果たせる者を指名するだけだ。
四つの院、それぞれに、金貨・杯・棒・剣と4種あり、代々継がれている。
力強く訴える戯加にエンユは笑みを向ける。「よくこんな真っすぐに育ったよな、俺の元で」 満足そうなエンユの笑顔に戯加もまた安らいだ笑顔を見せた。
【続く】
第3話目を無事にお届ですーww
法術ってきくと 今日からマ王を思い出しちゃう~~w