『Not guilty but…』(9)
- カテゴリ:自作小説
- 2010/11/17 02:31:15
『Not guilty but not innocent』(承前)
幹線道路沿いのファミレスは休日のせいか、ランチタイム真っ最中のせいか、ひどく混んでいた。待ちリストを見ると、すでに三十人くらい待たされているらしい。
他の店にするか?と打診されたが、どうせ他の店もこんなものだろうからこのまま待つことにした。
待っている間ケータイの送信メールと写真フォルダをチェックする。
《私》は時々起こる記憶の欠落を非常に恐れていて、行ったところや気に入ったものをまめに写真にとってはパソコンにメールしている。多い時には百件近くになる。
自動ログサービスも利用しているので、電池の消費が非常に速い。今もふと見ると残りが心許ない。慌ててケータイを閉じる。
「どうした?」
「あ、ここに来る途中に、コンビニあったよね?ちょっと行ってくる」
「だから、何が要るんだ?……ちょっと早いけど、始まったのか?」
後半を声をひそめてささやくように言う。省略された『何が』の部分を理解するのに二秒、何でそんな事を訊かれるかを理解するのに三秒ほどかかった。ちょっと早い、って、そんな事まで把握されてるのか、自分!
「……違うっ!ケータイの電池がヤバいんで、充電器を買いに」
「ああ、それだったら」
そう言いながら、ポケットから彼自身のケータイを取り出す。見ると、色違いだが同じ機種だ。裏返して、電池パックを外す。
「フル充電に近いはずだから、取り敢えず、これつけとけ。そっちのは」
あっけにとられているうちに自分のケータイを取り上げられ、電池パックが外される。
「車に充電コード積んでるから、メシが終わったら充電しときゃいい」
呆然と電池パックが交換されるのを見つめる。携帯会社(キャリア)が一緒なのは知ってたけど、まさか機種までとは。
「ほい」
と手渡されたケータイを受け取り、ずいぶん甘やかされてるなあ、と、半ば呆然としながら、ありがとう、と応じる。
「…って、今電源切らずに電池外しただろ!壊れたらどうしてくれる!?」
「そう簡単に壊れるもんでもないだろ?大事なスケジュールだのアドレス帳だのはメモリカードにバックアップしてるはずだし」
「う……それはそうだけど」
「それに、万一カードまでぶっ壊れたうえで機種変、なんて羽目になったとしても、全部ここに入ってる、だろ?」
そう言ってこっちの額をつつく。
「そうだけど……機種変だって無料じゃできないし、覚えてるからっていちいち入力するのは大変なんだぞっ。それに、」
食ってかかろうとしたところで、名前を呼ばれた。リストでひとつ前のグループが七人の大所帯だったので、後回しになったらしい。
ウェイトレスに案内されて窓際の席に着く。外から丸見えだ。……どんなふうに見えるんだろう?傍からは。
「それに、の続きは?」
オーダーを済ませてウェイトレスが立ち去ると、待ちかねたかのように問いかけてくる。
「……は?」
メール画面を開いて、『今日の昼ごはん』の写真に付けるキャプションを打ち込んでいたので、相手が何を言ったのか解らなかった。
「そいつが壊れたら困る事。機種変の手数料が掛かる。データの入力が面倒。それに、の続き」
「ああ。……写真や動画までは再現できない」
メールの続きを打ち込みながら答える。
「……確かに。訊くまでもなかったな」
まあ、どっちも九割方はパソコンにメールしてるけどな。残りの一割の被写体がこいつだってことは、敢えて教えまい。しかもパスワード付きのユーザーフォルダにしまってるなんて事は。
メールを打ち込み終わって一時保存し、ケータイを閉じる。残りは料理が来てから、写真と一緒に。
しかも、字面だけ見たらBLだ。
(そう見えるように狙ってはいるんだけどね。もうちょっと続くので我慢してください)