Nicotto Town



フェアリング・サーガ<1.XX>

<from chapter 1st>
次章への序章

実習船<ルカ-レインボウ号>に接続されたシャフト-ブリッジから出たニア・シルフィールを出迎えたのは、白い髪の少女と、ダークスーツの男の二人組だった。

ニアは眉をひそめながらも低重力床を蹴る歩みを止めることは無く進む。その彼女に二人は近づき並んだ。

「なんの用だ、ヴァリス。迎えにでも来てくれたのか」

「そうだ。頼みたいことがある」
白い髪の少女、ヴァリスがそう言うと、ダークスーツの男の方がこれをと言って、カードを差し出した。そのカードは、以前ヴィンセントが受け取ったものと同じMCだ。

「なんだ。こいつは」
カードを受け取り、その内容を認識しながらニアは、視線をダークスーツの男に走らせる。

「私の従者<ヴァレット>だ。名は、カイル・ラーゼン」
お見知りおきを、と、カイルは一礼する。

「僕か」と、つぶやきニアはカイルから視線を外した。汚物から目を逸らすかのように。「弱みに付け込み操るなど、お前も自ら嫌ってはいてもその本質までは拭えぬようだな、ソラリアン」
ニアは軽蔑の眼差しをヴァリスに向ける。しかし、ヴァリスがそんな皮肉に応じるわけは無かった。表情はもちろん、その声色も相変わらず、端的かつ冷徹に音声信号を発するだけで感情と言うものをまるで感じさせない。

「おまえがどう受け取るかは知らんが、これは協定だ。彼らは我らに協力し、その見返りに、我らは彼らの望みを叶える、というものだ」

「望み! ネッツの連中はそれで納得したとは思えんが」

「それはおまえが案ずることではない、シルフィール。それに彼らはもう我々側の存在だ。否が応でも、その運命を受け入れねばならない。それはおまえとて同じこと」
程なくしてニアは、突然その歩みを止めた。そしてヴァリスの方を振り返る。

「よくもぬけぬけとこんなことを。こんなことを本気でやるつもりなのか」
どうやら、ニアは渡されたMCの内容を認識し終えたようだ。

「当然だ。それは、必要にして必然」

ニアのこめかみがピクリと反応したかと思うと彼女のクールカットの髪が、ゾワッと文字通り一気に逆立った。癇癪をジャストミートしたらしい。普段でも険しい彼女の見幕は更に鋭さを増して、切り殺さんばかりの勢いだ。その殺気立った瞳は、燃えるような怒りの炎をたぎらせ、熱線銃の様な殺意を放った。カイルはそれに反応し、銃を抜いた。

「そんなものが、私に効くと思うのか」と、ニアはその視線をカイルに向けた。

その視線に込めた殺気だけで、十分だった。カイルは凍りついたように動かなくなる。目で殺すとは、まさにこのことだ。メドゥーサの石化睨み。

「そう盛るな。シルフィール」と、ヴァリスは冷やかに告げる。「よく考えてみればわかるはずだ。皮肉ではあるが、それが最善の策であるということが」

「それは貴様らにとってだろう!」

ニアの握りしめられた拳は骨が付き出しそうなくらいに角張って震え、今にも飛びかかりそうな勢いをなんとか、押しとどめているという感じだ。

「そうだ」と、ヴァリスは言う。「だが、それはおまえにも当てはまる」

ニアにもヴァリスの言った意味は分かっていた。だが、簡単に割り切れることでもない。

「哀しいかな。しかし、これは宿命なのだ。我らの」

間があった。永遠にも思えるような一瞬の間が。

そして、握りしめられた拳が解かれ、その逆立った髪は、スゥっと引いていく。

「…わかった」と、ニアは言った。「しかし、やるからには勝って見せよ。ネッツの様なことは二度とごめんだ」

「もちろんだ」

そうヴァリスは言った。


<to be next chapter>




Copyright © 2025 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.