Nicotto Town



初夢の続きは (11) 『邂逅』

「止めなって!」

パンを抱え戻ってきた友人が、2人の間に割って入ろうとする。

少し遅れて悟も、やってきた。

「2人とも、何してるんだよ!」

悟の声を聞くと、優はそちらに頭を向けた。

そして悟に一礼すると走り去って行ってしまった。

「なにがあったんだよ」

残された梅子に、詰問する。

「知らないわよ!あの子が突然絡んで来たんだから」

梅子は、お尻の砂を払いながら立ち上がった。

「何か言われたのか?」

「あんたには、関係ないことよ」

そっぽを向いたまま

「私、行くね」

梅子はそういい残し、友達と連れ立って立ち去ってしまった。



放課後、悟は、梅子とどうしても話をしなければならないと思った。

けれど、気付いた時には梅子の姿は忽然と消えてしまっていた。

(アレ?どこ行った?)

仕方なく校舎をアチコチ探したが、見つけ出すことは出来なかった。

(あとは、屋上位か…)



屋上のドアを開けると、突然強い風が吹き込んできた。

校舎を走り回って火照った体には、少し心地よく感じた。

屋上は、落ち行く夕日に赤く染められ、その光景は心の奥底に少し響いた。

辺りを見渡すと、短い髪の女子生徒が1人フェンス際に立って外を見ていた。

悟は、彼女の隣まで歩いて行き声を掛けた。

「ここにいたのか。梅子」

梅子は、上体を軽くひねりこちらを向くと、かすかに微笑んだ。

「何してるんだ?」

悟は、梅子の視線の先を見つめた。

「綺麗だな~って」

「ああ、そうだな」

「こんな夕日の中一緒に帰ったよね」

「ガキの頃はな」

「その頃の事、ちゃんと覚えてるんだ~偉い偉い」

「馬鹿にするなって!ちゃんと覚えているさ」

「じゃあさ、もっと昔のことは?」

「もっと昔ね……」




悟は夕日を見ながら追憶を始めた。

すぐに記憶が、鮮明とはいえないが戻ってくる。

だがある部分の記憶だけが、完全に欠落していることに悟は気づく。

いや、欠落しているのとは違った感覚。

何かに蓋をされているという感覚に近い。

そこに何かがあることはわかっているのだが、思い出すことが出来ない。

そんな記憶の存在に悟は、苛立ちを覚えた。


「え……なんだよ、これ?」

悟は血の気が、スーッと引いていくような感覚を覚えた。

そして軽いパニック状態へと陥った。

ついには立っていられなくなり、その場にうずくまる。

そんな悟を後ろから優しく抱きしめたのは他でもない梅子だった。

すると先ほどまでのパニックは嘘のように収まった。

しかし不可解さと一種の気持ち悪さは、未だにモヤモヤと、頭の中に渦巻いている。

梅子は少し悲しげに言った。




「いいの悟…、思い出さないでね…」




「梅子、何をいってるんだ?」



「…夢の隠し場所を教えてあげる」



夕日に溶けてしまいそうな梅子の線の細い華奢な体が、突然存在感を増した気がした。

悟は、体を緊張させ固まった。鼓動は早くなり、背筋は寒くなる。

梅子は小瓶の中から指輪を取り出した。

そしてそれを、そっと悟の手のひらに置いた。

(え?)

悟は何がなんだかわからなかったが、指輪をぐっと掴んだ。

そうすると頭の中を、巻き戻し再生のように、映像が駆け抜けた。

……なんだ、このイメージは?……

断続的に繰り返す意味不明の映像を、振り払うように頭を振った。

「梅子、これは?」

悟は、声を上げるが声は返ってこない。

いや、もう一度、梅子の声が聞こえた気がした。



「お願い、思い出さないでね…」



猛烈に流れるイメージの嵐に悟は、目を開けていることも、立っていることも、これ以上出来そうになかった。

目を瞑り、地面に腰掛け

(…落ち着け)

そう何度も自分に言い聞かせた。

(この映像に、覚えがない?)

最初は意味不明な映像を見せられているのだと思っていた。

だが、何度も見せられているうちに、懐かしい気分がこみ上げてきた。

「僕は、この映像を知っている…!」

そう認識した瞬間、頭の中で展開していた映像がプッツリと途切れた。



ゆっくりと目を開く

いつもの風景。 いつもの校舎。 いつもの屋上。

先ほどと、まったく一緒…。では、なかった。

先ほどまでと違ったことが2つ。

ひとつは、すっかり沈んでしまった太陽。

もうひとつは、これまた消えてしまった梅子。

屋上を見回してみたがどこにもいない。

まるで初めから誰もいなかったかのように…。

だが悟の右手には指輪がしっかりと握られていた。




悟は、梅子が立っていた場所を見つめた。

彼女が去った後、そこには小さな水溜りが出来ていた。

彼女の涙で出来た小さな水溜り。

それはなぜかとても深くて…、どこまでも深くて……。

悟は、その奥底に引き込まれそうになっていた…。

アバター
2010/11/14 01:28
どんどん深くなって面白いですね~
アバター
2010/11/11 14:54
指輪が鍵なのねぇ~。

「思い出さないで・・・」は、ホントは「思い出しね・・・」なのかなぁ?

悲しい過去なのか、それとも淡き甘酸っぱい過去なのか、涙の水溜りの訳も気になるトコロですぅ。

梅子・・・いったい何者なんだぃ??



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