初夢の続きは (11) 『邂逅』
- カテゴリ:自作小説
- 2010/11/11 00:25:39
「止めなって!」
パンを抱え戻ってきた友人が、2人の間に割って入ろうとする。
少し遅れて悟も、やってきた。
「2人とも、何してるんだよ!」
悟の声を聞くと、優はそちらに頭を向けた。
そして悟に一礼すると走り去って行ってしまった。
「なにがあったんだよ」
残された梅子に、詰問する。
「知らないわよ!あの子が突然絡んで来たんだから」
梅子は、お尻の砂を払いながら立ち上がった。
「何か言われたのか?」
「あんたには、関係ないことよ」
そっぽを向いたまま
「私、行くね」
梅子はそういい残し、友達と連れ立って立ち去ってしまった。
放課後、悟は、梅子とどうしても話をしなければならないと思った。
けれど、気付いた時には梅子の姿は忽然と消えてしまっていた。
(アレ?どこ行った?)
仕方なく校舎をアチコチ探したが、見つけ出すことは出来なかった。
(あとは、屋上位か…)
屋上のドアを開けると、突然強い風が吹き込んできた。
校舎を走り回って火照った体には、少し心地よく感じた。
屋上は、落ち行く夕日に赤く染められ、その光景は心の奥底に少し響いた。
辺りを見渡すと、短い髪の女子生徒が1人フェンス際に立って外を見ていた。
悟は、彼女の隣まで歩いて行き声を掛けた。
「ここにいたのか。梅子」
梅子は、上体を軽くひねりこちらを向くと、かすかに微笑んだ。
「何してるんだ?」
悟は、梅子の視線の先を見つめた。
「綺麗だな~って」
「ああ、そうだな」
「こんな夕日の中一緒に帰ったよね」
「ガキの頃はな」
「その頃の事、ちゃんと覚えてるんだ~偉い偉い」
「馬鹿にするなって!ちゃんと覚えているさ」
「じゃあさ、もっと昔のことは?」
「もっと昔ね……」
悟は夕日を見ながら追憶を始めた。
すぐに記憶が、鮮明とはいえないが戻ってくる。
だがある部分の記憶だけが、完全に欠落していることに悟は気づく。
いや、欠落しているのとは違った感覚。
何かに蓋をされているという感覚に近い。
そこに何かがあることはわかっているのだが、思い出すことが出来ない。
そんな記憶の存在に悟は、苛立ちを覚えた。
「え……なんだよ、これ?」
悟は血の気が、スーッと引いていくような感覚を覚えた。
そして軽いパニック状態へと陥った。
ついには立っていられなくなり、その場にうずくまる。
そんな悟を後ろから優しく抱きしめたのは他でもない梅子だった。
すると先ほどまでのパニックは嘘のように収まった。
しかし不可解さと一種の気持ち悪さは、未だにモヤモヤと、頭の中に渦巻いている。
梅子は少し悲しげに言った。
「いいの悟…、思い出さないでね…」
「梅子、何をいってるんだ?」
「…夢の隠し場所を教えてあげる」
夕日に溶けてしまいそうな梅子の線の細い華奢な体が、突然存在感を増した気がした。
悟は、体を緊張させ固まった。鼓動は早くなり、背筋は寒くなる。
梅子は小瓶の中から指輪を取り出した。
そしてそれを、そっと悟の手のひらに置いた。
(え?)
悟は何がなんだかわからなかったが、指輪をぐっと掴んだ。
そうすると頭の中を、巻き戻し再生のように、映像が駆け抜けた。
……なんだ、このイメージは?……
断続的に繰り返す意味不明の映像を、振り払うように頭を振った。
「梅子、これは?」
悟は、声を上げるが声は返ってこない。
いや、もう一度、梅子の声が聞こえた気がした。
「お願い、思い出さないでね…」
猛烈に流れるイメージの嵐に悟は、目を開けていることも、立っていることも、これ以上出来そうになかった。
目を瞑り、地面に腰掛け
(…落ち着け)
そう何度も自分に言い聞かせた。
(この映像に、覚えがない?)
最初は意味不明な映像を見せられているのだと思っていた。
だが、何度も見せられているうちに、懐かしい気分がこみ上げてきた。
「僕は、この映像を知っている…!」
そう認識した瞬間、頭の中で展開していた映像がプッツリと途切れた。
ゆっくりと目を開く
いつもの風景。 いつもの校舎。 いつもの屋上。
先ほどと、まったく一緒…。では、なかった。
先ほどまでと違ったことが2つ。
ひとつは、すっかり沈んでしまった太陽。
もうひとつは、これまた消えてしまった梅子。
屋上を見回してみたがどこにもいない。
まるで初めから誰もいなかったかのように…。
だが悟の右手には指輪がしっかりと握られていた。
悟は、梅子が立っていた場所を見つめた。
彼女が去った後、そこには小さな水溜りが出来ていた。
彼女の涙で出来た小さな水溜り。
それはなぜかとても深くて…、どこまでも深くて……。
悟は、その奥底に引き込まれそうになっていた…。
「思い出さないで・・・」は、ホントは「思い出しね・・・」なのかなぁ?
悲しい過去なのか、それとも淡き甘酸っぱい過去なのか、涙の水溜りの訳も気になるトコロですぅ。
梅子・・・いったい何者なんだぃ??