初夢の続きは (10) 『衝突』
- カテゴリ:自作小説
- 2010/11/10 18:37:04
季節は冬に向かっているというのに、穏やかな暖かい日だった。
その為昼休み、中庭でお弁当をとる生徒の数も少なくなかった。
優は、中庭へ向かうドアに手を掛けたまま、大きく深呼吸した。
「よし!」
中庭へのドアを開けると、少し強い風が吹き込んで来て優の髪を揺らした。
その風をまともに受け、覚悟は少し揺らぎ前へ進むのが躊躇われた。
けれども優は胸に抱いた弁当箱を一度強く抱くと、中庭へ向けて一歩を踏み出した。
「遅かったじゃない」
中庭の階段部分に腰掛けていた梅子は振り返らずに声を上げた。
だが彼女の言葉には、怒りも焦燥もない。
いつもの決まった友人との、ちょっとした秘密の暗号。
「ごめんごめん」
そう答えるルーズな友人の声で、このやりとりは完結するはずだった。
けれども、待てど暮らせど対になった暗号は返ってこなかった。
梅子は、いつまでも無言で立ったままの友人を不審に思い、ゆっくりと振り返った。
そこに立っていたのは、梅子の思い描いていた友人ではなかった。
「優ちゃん?」
「こんにちは、篠田先輩」
梅子は、妙な違和感を覚えた。
優は口元に笑みこそ浮かべてはいるが、目には強い意志を携えその奥底はまるで怒っている様に感じた。
(なんだろう? このちぐはぐした感じ)
思い浮かんだのは、昨日読んだ本の一説。
『人の良さがのぞく笑いもあれば、歯がのぞくだけの笑いもある』
今の優の笑顔は間違いなく後者であった。
「あの~お昼、一緒にいいですか?」
「あ、え? どうぞ」
まったく予想外の申し出に、梅子は少し戸惑いそう答えた。
「ありがとうございます」
一礼すると優は梅子の横に、ちょこんと腰掛けた。
「これ自分で作ったんですか?」
優は梅子の弁当を覗き込むと、感心したように声をあげた。
「ええ」
返事は届いていないようだった。
優の目は料理の腕を審査するかのように、食い入るように弁当を見つめていた。
やがて点数付けは終わったらしく、梅子の方へと向き直った。
「篠田先輩、私のお弁当も見てください」
そう言うと、自らの弁当箱の、蓋を取ってみせた。
梅子は身を乗り出して中身を確認したが、何も入っていなかった。
目を凝らしてもう一度見ると、紙切れのようなものが一枚入っているのが確認できた。
(これどういうことだろう?)
意味がわからず、首を傾げ考え込んだ。
優は、にこやかに微笑んでいた。
「どうぞ、篠田先輩のために特別作ったんですよ」
梅子は少しムッとして、つい声を荒げてしまった。
「あんた!からかってるの?」
「いいえ、どうぞ手に取ってください」
少しも悪びれず言い放つ優に、梅子は少し恐れを感じていた。
しかたなく言われるがまま、紙に手を伸ばし掴んでみた。
それは写真のようだった。
写真の裏にあたる部分には文字が書かれていた。
(う~ん日付かな?)
写真を裏返し、写っているものを見て梅子は絶句した。
「何で、あんたがこれを……」
梅子は、キッっと優を睨みつけたが、優はまっすぐ梅子の目を見つめ返しているだけだった。
沈黙の後、まず口火を切ったのは優の方だった。
「松梨先輩に謝ってください」
抑揚を欠いた声で語りかけるように優は言った。
「松梨先輩は未来を見れていない、ううん未来から目を背けている。 私それは貴方のせいだと思うんです」
「え……」
梅子は、少し呆気に取られていた。
「貴方にはその未来はないの。 その未来は望んじゃいけないの。 だから貴方のことで彼女が悩むなんてもったいないの! そんなのおかしいでしょ!」
「なんなの? なんなのよ勝手なことばかり言って! あなたにはわからないでしょ!」
今度は梅子が語気を荒げた。
「ずるいわ」
「何が!?」
「わからない、そう言ったら説明してくれるの?」
優は、梅子に掴みかかっていた。
「だったら説明してよ! 私には、どうわからないかちゃんと説明して!」
「離してよ」
梅子は、優を離そうとするが、離れない。
身長も、体格も梅子の方が勝っている。
けれど梅子は優に気圧されていた。
「どうして貴方は、秘密ばかりなのよ!」
梅子は、唖然とした。
(この子、どこまで知っているの?まさか全て?……)
梅子の脳裏を様々な予想が掠めた。
「悟先輩の事だっって、貴方がややこしくしてるんでしょ?」
「……え!?」
予想外のセリフに梅子は、肯定とも否定とも取れない、曖昧な返事をすると、そのまま掴んだ手を離してしまう。
「ちょっと2人とも! 何やってるのよ」
「12」を何度となく読み返し。
冒頭の意味深さが、興味をそそりますねぇ~♪
少しづつ霧が晴れていくような、でもまだまだ沢山の忘れられた記憶が、思い出して欲しそうな、だけど思い出して欲しく無いような、読み手としては先を気にせずにはいられない、そんな感じですぅ~♪