『Not guilty but…』（６）
- カテゴリ：自作小説
- 2010/11/09 06:48:11
『Not guilty but not innocent』（承前）
『現場』に戻ってみるとドラマなどで見る『鑑識』のつなぎを着た人たちが作業をしていた。一部は撤収を始めている。
「すみませんが、あなたがお目覚めになってからの行動を、思い出せる限りで結構ですからお話しいただけますか？」
ドアの横に陣取っていたさっきの紺スーツがベッドの方を示してそう言う。
「目が覚めてから…？」
「はい。…お願いします」
ベッドの上からはベッドカバーが取り去られ、人の形が白いロープで模(かたど)られている。
目を瞑って朝からの事を思い返す。
「目を開けると、シーツと自分の手が目に入って、……パジャマを着ていないのと、シーツが自分の物でないのに気付いて……ここはどこだろうって思いながら辺りを見回して……」
目に入ったものをいちいち説明するのは煩雑だろう。
「見回しながら、少しずつ体を動かして、ベッドの端まで来てから寝がえりを打つと、隣で寝ていた人が目に入って」
「ちょっと待ってください。どうして寝がえりを打つのにベッドの端まで移動を？」
「……過去の経験上、目が覚めて見覚えのない場所にいた場合、七割くらいの確率で隣に知らない人がいるからです」
「つまり、こういう事は初めてではない、と？」
「そう、ですね。死体がいらしたのは初めてですけど。……続けてよろしいでしょうか？」
「あ、どうぞ」
「私が動いたことで、その人が目を覚ました様子がないか、しばらく観察していたんですけど、どうも様子がおかしい、と気付いて。……おかしいのは、どうやら呼吸をしてないせいだ、と判って、……ためしにちょっと肩に触れたら冷たくて」
冷たくて硬い肌の感触がよみがえってきて、ぎゅっと手を握りこむ。
「急に気持ちが悪くなって、トイレに駆け込んで吐いてしまいました。亡くなった方には本当に、申し訳ないんですけど」
バスルームに移動する。
「それから、吐いたものが少し髪についたので髪と、それから体を洗いました。……なんか、死臭がついたような気がして」
「なるほど。すみませんが、ちょっと話を戻していただいてよろしいでしょうか？最初にあなたが寝ていたのはベッドの右側でしょうか、左側でしょうか？」
「ええと……右側です。亡くなった方の、右手のある方。私、右側を向いて寝る癖があって」
鑑識の人がベッドの上に白い小さなプレートを置く。
「では、体を洗った後、どうされましたか？」
「フロントに電話を……あ、いえ、その前にケータイを探したんでした。結局見つからなくてフロントに電話を。……そこのテーブルの上の説明書を見ると、フロントを通さないと外へ出る事も、外と連絡をとることもできないみたいだったので。……ケータイがなければ、ですが」
「テーブル？」
「えーと…名前が間違ってるでしょうか？ベッドの横の」
サイドテーブルじゃなかったらなんていうんだろう？確かに『テーブル』と呼ぶには物を置くスペースが少ない。
「ああ、これね」
またプレートを置く。
「念のために探した場所を教えていただけますか？」
「探した場所、といっても……探したのはバッグだったから、服の下とか、ベッドの下とか、……あとは辺りを見回して…入り口の横でバッグを見つけたので、ソファの上で中を見て。それで見つからなかったので」
「死体の下とか、衣服は探らなかった？」
「それは……考えませんでした」
だいたい、ベッドに持ち込む理由がないし。
もし、そんな事があったら、もうそのケータイは使う気になれまい。
「死体にも、持ち物にも触ってない？」
「少なくとも、目が覚めてからは」
……何か問題でもあるんだろうか？
「なんか、怖かったものですから」
「なるほど。……続けてください」
「フロントと、主治医のところに電話をかけてからは、しばらくぼーっとして……で、不意に裸同然の格好だった事に思い当たって着替えようと。下着を身に着けたところで服の状態がああなってるのに思い当たって、どうしようかと思ってると、フロントからの電話が」
「我々の到着を知らせた、と」
「はい」
「……なるほど。ありがとうございました」
それとも進行中ですか？