フェアリング・サーガ<1.12>
- カテゴリ:自作小説
- 2010/11/08 23:13:53
<from 1.11>
「まったく、この船の内装設備は、なにから何まで最高級品のオンパレードだな」と、毒舌家のジルバが柄にもなく感嘆を洩らす。「この待遇なら、ヴァリスに付き合ってやるのも悪くない」
ジルバが絶賛したように、カイルの用意したESEA専用機は、異常とも言えるほどの超性能<オーバースペック>だ。しかもそれは、内装だけにとどまらない。船はその推進エンジンの大出力にものを言わせ、通常航法からみると異常とも思えるような、緊急発進した戦闘機並みの急加速で、ジベータ‐シグマの第三宇宙速度に到達したが、その間、全くと言っていいほど急加速に伴う負荷をヴィンセントたち乗員が感じることは無かった。
コスモクルーザーに加速負荷軽減装置<アクセラショックアヴソーバ>が装備されていることはさほど珍しいことではないが、ヴァーチャライザの船外の光学映像と比較して、ここまで高性能なものは、ヴィンセントが知る限りでは未体験だった。カイルが言ったように、セファ-エンタープライゼス<SE>が、威信かけてその持てる技術力を結集して建造した自信作であるだけはあるようだ。
「冗談じゃないわよ」と、言ったのはエリスだった。「さっきまで、銃を突きつけて脅したくせに、いきなり何よこの手を返した様な待遇は。気持ち悪いほどにもほどがあるわ!」
確かにそう言われれば、そう思わずにはいられない。あからさまなその態度の変貌は、疑惑の度合いを通り越して、ばかにしているのかのようだ。
「おれたちはヴァリスに拉致されたかもしれない。救助されたんじゃなくて」そう言ったのはヴィンセント。「突然こんなわけわからない世界につれてこられて、この状況はなんだ。行動の自由は制限され、事実上の強制じゃないか。スターバーストだって本当かどうか」
ヴィンセントは、カイルの見せた強引なやり方にヴァリスの流儀との共通項を見出し、苛立ちを覚えた。ヴァリスも、カイルも、本質的には同じだ。その意に反することは許さず、強制する。まさしく封建制だ。しかし、それを嫌疑ところで、どうすることもできはしないのだ。それが悔しかった。現状としてはそれを甘んじて受け入れざるを得ないのだ。
「少なくともスターバーストが起こったことは、おそらく事実だろう」と、冷やかにエリカはつぶやいた。「それはヴァリスの説明だけではなく、我々の体験からも裏付けられている」
「ちょっと、どっちの味方なのよエリカ!」と、エリスは振り向く。
「どちらでもない。事実を言ったまでだ」
「まあ何せよ、すべての発端はヴァリスだ」と、ジルバがなだめる。「真実を知るためには、やつに会うしかない」
その点では、この場にいる全員の見解は一致していた。だからこそ、この船に乗ったのだ。確かに銃による脅しという手段で強引に連れてこられたものの、逃げよう思えば、そのチャンスが全くなかったわけではなかった。だが、ヴィンセント達レガイア人<レガイアン>の誰もがそうしなかったのは、不満以上に真実を知ることへの強い欲求があったからだ。
「それにしても、あの子、ヴァリスは変よ」と、エリス。「外見と言動がそぐわないというか。高慢で可愛くない」
「外観に惑わされちゃいけない。おれの見立てじゃあ、あれは義体<プロステティック>だと思うね」と、言ったのはジルバだ。「本星はそうでもないかも知れんけど、外縁部や小惑星帯には結構多いぜ。いろんな意味で実用的ってことでな、全身義体者<プロスティソシアン>や部分義体者<サイボーガー>は。広義的には電通デバイスのマイクロマシンインプラントやそれこそ義歯だってその部類だよ。本星でもそのくらいは馴染みがあるだろ」
ジルバの故郷では、そう言った人種は多いらしく、別段珍しいことではないらしい。彼はまるでファッションの話でもするかのような口調で話す。
「確かにその可能性はあると思うけど、でも、あの格好は」と、納得できないというようにヴィンセント。「義体って、普通、実年齢に則して作るものじゃないのか」
「ふつうは、な。だけど、聞いた話じゃ、人型じゃないマニアックなコアユーザー系のモデルもあるらしいし、あの外観は趣味じゃないの。それこそそんなこと言っちまえば、なんでもありだがな。性別、年齢、容姿と、その外見の一切はあてにはならん」
「うわ、キモい」と、エリスが嫌そうな顔をする。
「それこそ、そう、思わせることが目的かもしれないよ」と、ヴィンセントは疑惑の表情を浮かべる。「少なくとも、あのカイルってやつとヴァリスでは、同じことを言われても、印象は違ってくるし」
「ならヴァリスは、もっとそれらしい格好にすればいいのよ」と文句を言うエリス。
憶測から推測へ、予想から妄想へ。尽きることのない真理への渇望は、その想像を、その形を変えて、無数の話題を尽きることなく彼らに提供した。
そして、窓の外では、いつしか、その目的地、ジベータσ<シグマ>系圏/第四惑星<ジベータ本星>の第二衛星<レガ>が地表部が見えるまでに近づいていた。
<to be continued>