『Not guilty but…』(2)
- カテゴリ:自作小説
- 2010/11/05 04:16:08
『Not guilty but not innocent』(承前)
『……もしもし』
いかにも寝起きの、不機嫌そうな声がする。
「おやすみのところ朝早くからすみません。とうとうやらかしてしまったみたいです」
『やらかした、って。……誰が、何を?』
電話線の向こうの声がにわかに緊張する。大きく息を吸って、悪い方の想像を口にする。
「《あたし》が、過失致死を」
息を呑む気配が伝わってくる。
『…で、そこはどこ?警察には知らせた?』
リーフレットの下の方に印刷されている、ここの所在地を告げ、警察にはここのフロントから連絡が行ってるはずだと伝える。
『解った。すぐ行く。遅くとも1時間以内には着くと思う』
「あ、待って。二つだけお願い。ケータイが行方不明なんです。ログを調べておいてもらえると助かります。あと、来る時に着替えを持参してくれると嬉しい」
『……着替え?』
「スウェットか何かでいいから。《あたし》の着てきたのは、ちょっと着用できなくて」
『……なるほど。解った。着くのが1時間越すかもしれないけど、大丈夫か?』
「……たぶん。でも、警察の扱い次第、かな」
『そうだな。とにかく、気をしっかり持って、はっきりしない事は『わからない』で押し通せ。じゃあ、切るから』
切られる前に一言付け加える。ちょっと口調を変えて。
「…ごめんね。手間をかけさせて」
通話が切られるまで少し間があったが、結局、返答はなかった。
ハンドセットを戻すと、急に膝から力が抜ける。思ったよりも緊張していたらしい。
だが、呆けてはいられない。誰かが入ってくる前に、一応見られる格好にはしておかなくては。
座りこんだまま手を伸ばして、ベッドの横に蟠(わだかま)っている服を掴む。
男を誘惑する以外にどんな用途があるのか、と訊き返したくなるような薄くて頼りない服。だが、自分のクローゼットの中には見覚えがない。どこで手に入れたのか、と首を傾げる。
下着もまた、裸とどっこいどっこいな際どいもので、「何も着ないよりはまし」と呟きながら装着する。ありがたいことに、頭は半分パニックになっていても、手の方が着方を覚えている。背中のフックを留めるのに多少手間取ったが、なんとか着終えた。ストッキングは転んだのか、どこかに引っ掛けたのか、それともそういうプレイでもしたのか、両脚とも足首まで裂けていたので、ゴミ箱に突っ込む。アクセサリ類は急いで身につける必要はないだろう。今更だが、『現場保存』とかいう原則があるそうだし。
肩ひもが片方ちぎれたキャミソールドレスとひざ上丈のバスローブ。どっちがより刺激が少ないだろうかと思案していると、サイドテーブルの電話が鳴った。
フロントから警察と救急が到着したとの知らせだ。ロックを外すので、中から開けてください、とのこと。一応、客の何かには配慮している、という事か。「何か」が尊厳だか人権だか、それとも面目だかは知らないが。
ドアがノックされた。バスローブの前をきちんと閉じて、はだけないようにしっかり掴みながらドアを開ける。
グレイの制服の救急隊員が入ってきて「具合の悪い方はどちらですか?」と訊ねてくる。ベッドのある方向を指さすと、そちらの方へ向かう。
そのうちの一人がやってきて、話を聞かせてくれ、というので、「ここで?」と不安げな表情を浮かべてベッドのある方を窺うと、フロントに掛け合って同じフロアの別の部屋を開けさせてくれた。
患者の異常に気付いたのはいつで、その時はどんな状態だったか、気付いた後どうしたか、というような事を訊かれる。
「え…と…目が覚めたら、隣に人がいるのに気付いて。で、顔を見たら、なんか顔色が悪くて。胸も動いてないし。あっ、死んでる、って思ったら急に吐き気がして、で、トイレに駆け込んで。そのあとどうしようかと思って、しばらく考えてから、フロントに電話を。時間は…えーと……目が覚めて、ここはどこだろうって見回して、時計らしきものが目に入ったのが六時…二十…二・三分?」
自分でしゃべっていて、なんて頭が悪そうなんだ、と思う。
「処置…心臓マッサージとか?…はしてません。やり方がよく解らないので。…触るのもなんか怖くて」
本当のところは黙って逃げる算段をしていたからなのだが。
「だって、知らない人だから。…名前もたぶん、聞いてません」
ボールペンを走らせていた手が一瞬止まり、こちらに目を向ける。頭の上から足元まで一瞥(べつ)すると、すぐ目を戻す。
書類を書き上げた消防署員が「ご協力ありがとうございます」とぼそりと言って引き揚げる。
入れ替わりに入ってきたグレイと紺のスーツの二人組の紺の方が、警察の名刺を差し出す。同じくらいの年頃に見えるが、こちらの方が階級が上、なのだろうか?少なくとも『班長』というからには立場は上なのだろう。
てか、当たり前だけど。 ここで先が見えちゃったら中編書く意味がない。www
ホントに上手いですねぇ、もう文章に関しては素人とは思えないんですけど。
…実は覆面プロだったりして。www
主人公が自分の事を 《あたし》 と言ってるところが気になります~。
きっとこれが伏線ってやつですね! (^m^*)ムフ♪
イヤ~、先がすっごい気になります♪
想像するに普段は冷静沈着でヒニクだけれど信頼はされている。
でも自分の想定外の事には直ぐに対応は出来ない?
後で、何でこんなこと言ってしまったんだろうと後悔するタイプ。
実はまぶこさんそのものだったりしてw
でも、本当に上手ですね♪もしかして本職だったりして。