Nicotto Town



フェアリング・サーガ<1.11>

<from1.10>

ルカ-ファウンデーションのスペース・ポートには、カイルが用意した惑星間コスモクルーザー、機能性、娯楽性を追求した宇宙船が待っていた。

「あの船です」と、ターミナル・ロビーに着くとカイルが巨大なパノラマウィンドウの外を指差した。

その一同が向けた視線の先には一隻の宇宙船が停泊していた。

その姿を見たジルバが口笛を吹く。陽光を受け輝くその船体はグロスホワイトで統一され、まるで羽を広げた白鳥さながらの優美さだ。その優美で洗練されたデザインの船体にはセファ-エンタープライゼスのロゴマーク、翼を広げた天使のようなデザインが金色で描かれている。

間もなく、接続されたブリッジシャフトを通じて案内された船内も外観に負けじと劣らず相応しい様相だった。本当に宇宙船かと思えるほどの豪華な内装、まるで、ルカの最高級ホテルのロイヤルスウィートに匹敵するであろう絢爛さだ。船内に入ると、パブリックチャンネルを通じてホログラフイメージが現れた。主要定期便の客室乗務<パーサー>のような格好をしたホロイメージアイコンを通じて、シップドメインが挨拶してきた。この船の管制システムは、独立したAIを搭載しているらしい。操縦席らしき部分はあるものの、通常よくみられるごちゃごちゃした計器類は一切なく、各セクションの微妙な調整、管理、運営は、すべて管制システムが自動で行ってくれるようだ。第一、操縦席自体操縦席らしからぬデザインをしている。一部が欠けた卵の様な着席者の体型に合わせて最適な形を保持するスマートリクライニングシートだ。しかし、誰が操縦するのか操縦席には操縦士の姿は無かった。

案内するカイルもその席に着くことは無く、一同をほぼ船体中央に位置する展望ラウンジへと案内する。そこは、壁面はもちろん床、天井にもウィンドウスクリーンとヴァーチャライザが設置されていた。今はなにも映っておらず白い壁面に過ぎないが、作動させれば、船の周囲全方位の光学映像はもちろん、各種の疑似体験系の環境映像を表示できるだろう。疑似重力装置を停止すれば、船内にいながら、宇宙遊泳を楽しめる。最高級の間接的疑似体験装置だ。おまけに収納式のバーカウンターまで設置されている。そこから、カイルは全員分のグラスを用意し、飲み物を注いだ。全員にそれを配り終えると、ラウンジ中央に移動し、門出を祝って、とグラスを掲げた。そして、発進、と言った。
船が、ホロイメージアイコンが、了解、と反応し、発進シークエンスの一切、交通管理システムへの打診、ポートから離脱制御、その他諸々の操作を全自動でこなした。高級言語インターフェースコントロールシステムを搭載しているらしく口頭でも操作できるようだ。これにはヴィンセント達レガイアンも阿鼻叫喚するほかなった。あまりの驚きにさすがのジルバも開いた口がふさがらず、口笛を吹かなかったほどだ。技術水準が少々先進しているとは言え、ヴィンセント達レガイアンの故郷でもこんな高性能なシップはほとんどお目にかかれないだろう。これほどの性能を持つ船は、それこそ、惑星知事や星系議会の議員が移動に用いる政府専用機の中でも最上クラス、スペースシップ-ワンくらいなものだ。

そのヴィンセント達レガイアンの反応に、驚かれますか。と、カイルは意外そうな面持ちで尋ねた。どうやら、彼はレガイアンを少し買い被っていたようだ。

「わが社の自信と威信、技術の集大成と言うべき船です」と、誇らしげに、カイルは説明する「推進/制御システムはわが社の技術陣の粋を集めた最新のものを、安全性、快適性に配慮した設計となっております。一般販売はまだですが、これは、販売向けと同じもので、最終運用テスト用だった機体を現在はESEAの専用機として使っております。それでは、到着まで間、しばし、お寛ぎくださいませ。私は雑務がございますので先ほどの操縦席におります。なにかございましたら、ご遠慮なく、私、もしくはホロアイコンをお呼び出しください」そう言って一礼する。

立ち去ろうとするカイルを、ヴィンセントは引きとめた。

「あの、ニア・シルフィールさんは。彼女は一緒じゃないのですか」

「御心配には及びません。彼女は別ルートから後ほど我々に合流いたします。ご安心を」
カイルはほほ笑み、立ち去った。

「ニアっていうのは」エリスは、グラスに二杯目を注ぐ。

「おれたちと同様、ノアベータから連れてこられたんだ。一か月くらい前に長期実習に出て、もうすぐ帰ってくる予定だったんだ」

ジルバはホロアイコンを呼び出し、この施設の使い方を訊き出し、ヴァーチャライザのチャンネルをあれこれいじり回した。彼が、チャンネルをいじる度に、その度に室内環境の視野は、砂漠、荒野、草原、氷河、天空とめまぐるしくその様相を変えた。実によくできたヴァーチャルリアリティ。本当にそこに居るかの様な錯覚を覚える。しかし、最終的には、船外の全方位映像で落ち着いた。進行方向の後方で、ルカ-ファウンデーションは小さくなっていった。


<to be continued>

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2010/11/01 17:47
物騒な命令の割に、豪華な待遇。この先に何が待ち受けているのか?



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