Nicotto Town



フェアリング・サーガ<1.9>

<from 1.8>

「教えてほしいんだ」ヴィンセントは切りだす。「あの日、何があったのか。何が起こったのか」

ヴィンセントは、故郷における標準的時間計測法におけるその日付を言った。

「あの日何が起こったのか知らないの」と、エリスは怪訝そうな表情を受かべる。「ノアベータにいたんでしょ」

「そうだけど、曝露空間は見えていなかった。俺は建物の中にいたんだ。避難する途中で施設内通路に閉じ込められて、外で何があったのかまるで知らないんだ」

「そう。あなたもそうなの」と、エリスはジルバの方を向く。

「俺は、一応は、見たよ」

それは爆弾発言だった。こんなにも近くに答えがあったなんて。なぜ、教えてくれなかったのか。と、ヴィンセントは裏切られた気持ちになる。

「おい!知っていたのか!」

「しかし、それはあまりにも信じがたいことだった」と、ジルバはすまなそうに言い。そして付け加えた。「今後数十億年にわたって、起こり得ないはずのことが起こったんだ。だから、お前が知らない、覚えていないと言ったとき、あれは、俺の勘違い。記憶の混濁による思い違いだと思った。ただの悪い夢だったのだと思うことにした」

「でもニアは、知っていたんだろう。あの日何が起こったのか、を」

「たぶんな。だけど、あまりのことに、俺の方からはそのことについては言及しなかったし、やつも何も言わなかった。そのままお前が現れるまではうやむやにしたままだったんだ」

「一体、何を見たんだ。何が起こったというんだ」

「太陽が巨星化<スターバースト>を引き起こしたんだ」

「まさか!」

そんなことは起きるはずはなかった。ヴィンセント達レガイアンが太陽と呼ぶ恒星が燃え尽き、その命を終えて赤色巨星へと変わるのは十億年単位のオーダーで先の話だった。

永遠にも等しい時間の中にある恒星天体も、最終的に巨星化するなり、超新星爆発を起こすなりして、その生涯を閉じる。それは同時に、その恒星の周りを周回する惑星天体にとっても、その運命が尽きることを意味していた。恒星が引き起こす現象の影響力は絶大であり、その恒星系の惑星は必ずその影響を受けるからだ。

レガイアンの本星<レガイア>にしても、その運命を免れることは無い。もし、恒星がスターバーストを起したとすれば、レガイアの公転軌道は巨星化し膨張した恒星に飲まれ、レガイアは焼きつくされる運命にあった。したがって、それが事実だとすれば、レガイアンの故郷は失われてしまったことになる。それが、もし、事実ならば、だが。

「本当よ」と、エリスは告げる。「突然スターバーストは起きたのよ。誰にも、どうすることもできなかった。あたしたちのレガイアは滅んだのよ」

「そんな・・・」

ヴィンセントはあまりのことに言葉が出なかった。

希望は完全に打ち砕かれた。家族も、友人も、みんな、みんな、消えてしまった。失われてしまったのだ。それは、まるで幻であったかのように。

これは夢だ。悪い夢。悪夢だ。そうだ、そうに違いない。そう思わずにはいられない。ジルバがそう言ったように。

室内に重苦しい雰囲気が充満した。誰もが視線を落とし黙りこむ。

しかし、スターバーストが起こったのなら、なぜ自分は助かったのだろう。スターバーストは人智を絶する天災、天体現象だ。それにあがなう術は無い。少なくともヴィンセントの知る限りでは、レガイアンはその術を確立してはいなかったはずだ。したがってそれに巻き込まれたのならば、一溜まりもなく、万に一つも助かる方法など無いはずなのだ。

「いきなり、そんなことを言われてもぴんと来ないのはわかる」と、ジルバがわざとらしく明るく言う「俺もそうだったしな。こいつぁ、受け入れがたい事実だ」

「じゃあ、おれたちはなぜ助かったんだ」と、ヴィンセント。「スターバーストに巻き込まれたのなら、誰も助からないはずじゃないか」

「そうね」と、エリス。「それは謎だわ。あたしたちが持っているスターバーストに関する情報も断片的なものだし、第一、ここがどこなのかもわからない。私達の知るレガイア星系のどこか、なのか、またはレガイア複合系圏に属する別の星系なのかも。それを知るためにもヴァリスには会う必要があるわ」

「ヴァリスは、このジベータ星系は、レガイアからは遠くの別の星系だと言っていた」

「そう。たしかに、ジベータなんて名前は聞いたことはないわ。でもそれは、考えにくいわね。だって言語だって普通に通じるし、技術水準だってほとんどそん色は無いもの。別世界なんて、そんなファンタシックな、そんなことがあってたまるものですか」

「その謎の解を、真実を知るはヴァリスのみ」今まで黙っていたエリカが急に口を開いた。低いハスキーボイス。それもあってその言葉は神秘的「我々は知らねばならない。何が真実なのか、そして受け入れねばならない、なにが現実であるのかを」

その時、また部屋のドアが開いた。


<to be continued>

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2010/10/29 06:20
>りおねるさん。

いつもご拝読ありがとうございますw
ご期待に添えますよう、これからも頑張って行きたいと思いますので、どうか辛抱強くお付き合いいただければ幸いです。
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2010/10/29 06:15
>まっぴいさん。

コメントありがとうございます。
まっぴいさんが、手前の(下手な)作品をお読みになり、どの部分をどのように解釈して、その様なご質問をなされるのか手前の(貧弱な)想像力では想像に堪えません。物語の書き手として非常に興味深い限りですw
いずれにしても、毎回ご拝読いただきありがとうございますw


二つ目のご質問に関しましては、それは手前が申し上げるようなことではないかと思いますが…(^^;)
しかしながら、ディック大先生の作品はいずれも意味深で、手前が及びも付かない完成度の高い作品ばかりですので、お読みになっておられず、お読みになりたいのであれば、お読みなればよろしいかと思います。
その辺はまっぴいさんの御存意に。
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2010/10/28 23:01
もっこすさん……楽しみにしてます♪(色々な意味で、ね☆ww)
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2010/10/28 22:15
えーと、ヴィンスくん達の元いた世界は、太陽と同じくらいのサイズの恒星系で、恒星系内へは進出していて、コロニーも作っているけど、他星系へ行くだけの技術はない、という事でOKですか?


ところで、『ヴァリス』というとP.K.ディックの長編タイトルにありますが、アレ読んでたらネタばれになりますか?(私は読んでませんが)



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