フェアリング・サーガ<1.8>
- カテゴリ:自作小説
- 2010/10/26 21:54:45
<from 1.7> 「そりゃ、どういう意味だよ」と、ジルバはむっする。 「さーて、次は…」 「お前こそ、こんな問題簡単だろ」と、近づいてくるなりジルバは盤面を見ると、駒を取り上げる。「これは、こうだな」 「何するんだよ!」ヴィンセントは抗議したが取り合わない。応酬のつもりのようだ。 「そして、これはこうで、こっちがこうなり、こう打つわけだ。へっ、見てやがれ、この俺の実力を」 そういいつつ駒を動かしてゆく、どうやら認めてやらんと気が済まんらしい。ヴィンセントはあきれて、なされるがままに放置した。 数分後、ぱぱーん! という効果音と共に盤面上から駒が消え≪STAGE CLEAR≫の文字が表示された。 「どうだ」と、ジルバがヴィンセントを振り返る。 「なんだよ」 「別に」 「どこへ行くんだ」 「めしだ。行くぞ」 「俺もかよ」 「そうだ」 こうして、ニアの戻る三日前にヴィンセントは予定表の項目を大方完了させた。件の「Tsume-shogi」など、一部例外はあったが。 その一日は、スクールの管理部からの呼び出しから始まった。指示された集合場所に向かう途中のエントランスで、ヴィンセントはジルバに出くわした。どうやら方向は同じようだ。エレベーターに乗り込む。 「お前、昨日予定表の期限付き過程は終わったのか」と、ジルバ。 「一応」と、答えるヴィンセントに、ジルバは、そうか、と一人合点。 「行先は管理棟か」 「ヴァリスかな」ヴィンセントはジルバに聞く。 「可能性はなくもない」ジルバはそれ以上はわからないという風に肩をすくめた。「やつから渡された予定表が終わったんだろ一応、俺も終わってるし。そして、このタイミングだ」 「でも、ニアがまだ」 「さあな。だから、ただの勘違いかもしれん」 二人は、管理部の入り口をくぐる。さすがは管理部、ちゃんと人間がいるし、受付にはアンドロイドの応対インターフェース端末も設置してあった。 受付で要件を告げると、パブリックチャンネルを介して視野上にスクールのマスコット型の誘導アイコンが現れる。アイコンは二人を面談室の一室へと案内した。 ドアを開けると、中には二人の女性の姿があった。しかし、ヴァリスではない。年齢はヴィンセントやジルバと同じくらいだろうか。一人は肩まで伸びるウェーブのかかったブロンドの女性。もう一人はそれ以上に背が高く、長い黒髪を後ろで束ねている。 その反応からして、ヴィンセントとジルバを知っている様子は無い。黙ったまま、視線だけを向けてくる。ヴィンセントがジルバを振り返ると、ジルバは首を横に振る。どうやら彼も知らないらしい。 ジルバは手近な席に腰を据えた。 「違ったのかな」と、席に着きながら呟くヴィンセント。 「しらねーよ。ヴァリスの考えることなんか!」 ジルバは部屋中に聞こえるように、わざと声を大きくらしくぶっきらぼうに答えた。そして、ちらりと二人の方を見やる。カマをかけたのだ。 反応はあった。その単語に二人の女性は反応した。ブロンドの女性の方が近づいてきた。 「今、ヴァリスって言ったわね」と、ブロンドの女性。 「ああ、言った。あんたもそうなのか。同郷人<レガイアン>。あいつに連れてこられたのか」 「ええ、そうよ」と、女性は頷く。「あなたたちも」 「そうだ。俺はジルバ・ドラグノフ。同じくレガイアンでグルニア出身、こいつは相棒のヴィンセント」 いつから、相棒になったんだ。と、ヴィンセントはあきれる。 「おれは、ヴィンセント・ベルファイン。出身はノアベータ。おれたちはヴァリスにノアベータから連れてこられたんだ。あなたは」 「あたしはエリス・ワインボッシュ。ノアベータ。そう第二重力均衡点ね。あたしたちはレガイアからよ。彼女はエリカ・クドー」 エリスが、黒髪の女性の方を振り返る。エリカと呼ばれた女性は一瞥した。 「本星か」と、ジルバは口笛を吹く。 本星と呼ばれる惑星<レガイア>は、ヴィンセントの故郷における政治経済の中枢を担う惑星だった。
ヴィンセントが無関心を決め込むと、ジルバは立ち上がった。出鼻を挫かれて気分を害したようだ。
あからさまだなこいつも、と思いつつ、「すごいすごい」と褒めてやる。
ジルバは、まだ不満があるようだ。だが、訓練の疲れもあり、まともに取り合う気にはならない。たとえ体力が充満していても取り合うことにはならないだろうが。
ヴィンセントは立ち上がった。
当たり前だ。このまま泊まり込むつもりなのか。こいつは。
この雰囲気だと、ほぼ間違いなくその流れになるだろう。過去、そういった流れで、数日間居座られたことがあった。こいつは転がり込んだたちの悪い宿なし家出娘と言った感じで、この部屋を占領した。いや、徴用したというべきだ。追い出すのにどれだけ苦労したことか。二度とそんなことはご免だ。
コタツから出たがらないように尻込みするジルバの尻を蹴って連れ出し食堂へ。
食後、ジルバはヴィンセントに当然の様に着いてきたが、追い返したのは言うまでもない。
ヴィンセントは、頷く。ジルバがそう訊いてくるということは、同じ行先なのだ。
到着。ドアが開き、二人は外へ。
<to be continued>