フェアリング・サーガ<1.5>
- カテゴリ:自作小説
- 2010/10/16 22:50:44
<from1.4> ヴィンセントは宇宙空間を漂っていた。だが、圧迫感が全くない。通常なら、インナー、アウターと、前世紀よりは格段に進歩しているとは言え、EVA装備の身体的負担は大きい。こんなことはあり得ない。 そうか、これは、夢だ。それとも、走馬燈かしらん。 そして現れる少女。それはどこかで見た顔だった。しかし、どこだっただろうか。 「きみは―――」名前が出てこない。 ≪ヴァリスだ。二度と忘れるな≫ 星星はまるで川の流れ様に急激な速度で接近しては彼方へと去っていく。だが、そんなことは通常ではありえない。波長は物理法則によって変化し、引き延ばされるはずだ。そして、それは時間さえも。だ。こんな風に、全天が走馬燈のように見えるはずはない。 ≪いかにも。クラスⅥにとってこれは現実ではない。そのように認識することは叶わないからな。時空連続体を横断することなど≫ ヴィンセントにはまるで意味不明だった。しかし、その光景は美しかった。時間を忘れ見入った。ヴァリスはそれを横目に微笑したようだった。まるで嘲笑うかのように。 やがて、その星星の流れは緩やかになっていった。行先を訪ねると、それはだいぶ遠くにある宙域だという。それは、ヴィンセントに言わせれば別の宇宙と言ってもいい。彼が一生かかっても、彼の世界の技術では到達できない世界。なるほど、見知らぬ世界なわけだ。 なぜ、自分はそんなところへ連れていかれるのか、と、ヴィンセントは思った。 ≪それは、お前が私と契約を交わしたからだ。お前の願いは叶えてやった。したがって、お前は、その代償を支払わなくてはならない。それが契約だ。その因果律が≫ だが、ヴィンセントには契約の意味がわからなった。その内容さえも。 宇宙は淡い光に包まれ始めていた。恒星へと接近しているようだ。緩やかに減速しながら。 そして、ヴァリスはこうも言った。 これはやり直しではない、始まりなのだ。とも。 そして、ヴィンセントは淡い輝きに包まれた。 そこへ迎えに来たのが、バーノンだった。バーノンは言った、お前は事故に遭ったんだ。と。異常は無いらしいが、強く頭を打ったから、記憶の混濁は、そのせいだ。とも。 初めは被害を免れたコロニーどこかに退避したのかと思ったのだが、どうやらそうではないらしかった。 そこは全く見知らぬ場所だった。別の宇宙、別世界。まるで、夢でも見ている様な感じだった。しかし、これは現実なのだ。この宙域のチャートマップにヴィンセントの故郷は乗っていない。 そんな不安をよそに身体の方は順調に回復し、退院してみれば仕事が待っていた。時事ニュースをネットワーク上へアップロードする仕事だ。いままでそんなことをしたことは無かったが、できない仕事ではなかった。 そうするうちに時間は流れ、惑星は太陽のまわりを周り、数年が経過し、あの日の記憶は薄れ去った。尋ねてもわからず、ヴァリスのことも彼女との契約も夢だと思うようになり、しまいには忘れていた。そして彼は周囲の環境に順応していった。 しかし、突然、その平穏なる日々に水を差すようにあの少女がヴィンセントの前に現れた。彼を救いこの世界へと誘った白い髪の少女、ヴァリス。 一度は自分の前から幻であったかのように姿を消したのに、なぜ今になって。 今度こそ、それを突き止める必要があるとヴィンセントは強く思った。そう、真実を。 その思いが通じたのかもしれない。間をおいてニアは、わかった。と頷いた。 「だが、今は無理だ。私は、明日から外縁までの長期実習に出なければならない。それが終わってからなら、知っていることを話そう」 「ありがとう。連絡を待ってるよ」 こうして、ニアは長期実習に行ってしまった。 ニアの長期実習の期間は約1カ月だった。その予定経路は<ルカ・ファウンデーション>のある<ジベータ-シグマ>の第四惑星静止軌道から第四惑星の引力でスイングバイ加速。軌道変遷可能な第二宇宙速度まで加速し、恒星σ<シグマ>に向かって飛び、ブーメランのようにσのまわりをぐるりと周って戻ってくるというものだ。 その間に、交通量などの都合から惑星近傍では行えないさまざまな実習訓練を行う。 それが行われる実習船<ルカ-レインボウ号>は深宇宙も航行可能な船で、その全長は三〇〇〇メートルをゆうに超える。円筒状の船体のほぼ中央に回転する居住ブロックがあり、片方の端にエンジンブロックが取り付けられている。主推進力は加減速用の核融合エンジン・ブースター12基と慣性航行用及び発電用の太陽帆<ソーラーセール>だ。この太陽帆は発電、推進力を生み出す用途のほかにシールドとしての役目も担っている。恒星に接近しても、この巨大な帆が影を作り、恒星の放つ想像を絶する輻射熱から船体を保護するのだ。太陽帆を完全展開した実習船がσの光を反射すると、まるでそれは闇に浮かぶ巨大なキノコを思わせた。
しかし、それは即座に≪違う≫と、否定された。
目覚めた場所は今までとは違う場所だった。活気があり人気もある。
彼女の契約。とは、なんなのか。
<to be continued>
コメントありがとうございます。
ルカ-レイボウ号はたしかに大型ではありますが、そのほとんどはソーラーセールの大きさなので、船体としての機能を持つコアブロックはつつましすぎるくらい小さいです。ハリボテ?
核融合エンジンは、一応プラズマジェットを想定・・・。
こういうことは本来、本編に納めなければならない情報なんでしょうね。申し訳ないです。
命を救われた・・・っていうか、別の命を与えられたのかしら。
その代償として、何を要求されるのでしょうね???
う~ん、何かよくない不吉な兆しが・・・。
ルカ・レインボウ号・・全長3kmって、超大型船ね。
核融合エンジン搭載ということは、イオン或いはプラズマ噴射推進かしら?
コメントありがとうございます。
そうですね、用途によっては、推進力源というより、シールドとしての防護性能、発電ユニットとしての役割がメインとして使用される場合もあるでしょうし、その解釈でまったく問題ないかと思います。
どちらかというと人工衛星などが装備してる『太陽電池パネル』の大きなもの、と理解していいんですね?