「山男とサーファー」最終回
- カテゴリ:日記
- 2010/10/16 22:14:17
山頂近くにいるから、自分のいる地点から雪崩が起こったことになる。
遮蔽物が無くなったので、ツェルトはもろに風を受ける。しかし、余りにも頑丈に設置したので飛ばされる心配はない。あとは材質が、どれだけ耐えられるかだ。
「残念ですが、山頂まであとわずかですが断念します。風がおさまりしだい、撤退します。両足の指が完全にやられた・・・・・・どうぞ」
「無事を祈ります。本当に残念だけど、荷物を最小限にして、身軽になって下山して下さい。トランシーバーも放棄して下さい。また次があります。無事生還して下さい、どうぞ」
「了解。これが最後の通信になると思うけど、必ず生きて帰る。これで通信終わります」
最後の通信は従弟のS君であった。父親同士、親類関係で何があったか知らぬが、S君とは子供時代から仲が良かったから嬉しい。
一晩そこで過ごして、朝になると風は弱まり、絶好のアタック日和であった。
俺はナンガの頂を一瞥して、「またくるぞ!!」と、怒鳴る。
一度下した決断。
残念ではあるが、下山を促すような青天。
生還の道をナンガは俺に与えてくれた、と俺は感じた。
下山は楽だった。降りるルートや足場など、次におこなう行動先が光って見えるのである。俺は無我夢中で下っていく。
凍傷に罹った足で、俺はベースキャンプに着いた。
両足・両手・顔面。ひどい凍傷のため、パキスタン軍のヘリで、病院に運ばれた。
戦いに敗れて悔いはないが、今回は、ナンガ・パルバットが再び俺に挑戦してこい、というメッセージに受け取れた。
T医師の執刀のもと、俺は両足の指すべてと、右手数本を失った。そして日本に帰国する。現地の病院で、ある程度傷が癒えてからの帰国だった。
無事生還できて、施設の人々も、あいつの彼女も喜んでくれた。しかし、ナンガに挑んだ俺の姿の無残さに、誰もが涙を流してくれた。
俺は笑って、「今やっと第一歩を踏み出しただけだよ」と言う。
魔の山に魅せられた俺は、自分の人生の第一歩を踏み出したに過ぎない。
ナンガを征服したなら、次は残りの八千㍍峰を全部狙う。そして、ヨーロッパ・アルプスも。
命を賭けての、ギリギリの挑戦。
生きがい。
それがすべて。
自分の大切な何かを失って、初めて呪縛から解き放たれた。
もう、あいつの為ではない。
自分の為に、自分の生きている証として山を愛する。
人は一人では生きてはゆけぬ。
たった一人での登頂を目指す俺の背後に、俺を生還させようとする友がいた。
今度はパーティーを組んで行こう。俺は最後尾でいい。
滑落する者がいたならば、俺は命懸けで仲間を守る。たとえ腕がちぎれようと、己の胴体に命綱を結び、何人滑落してきても、己の胴体の内臓が、はらわたが、捩れ、ちぎれようと、必ず全員を守り抜いてみせる。
これが、俺の学んだ、友情というものの、真の姿だったのだ。
完
時代設定が古いけど、先日もヒマラヤで、大学と山岳会の2パーティーが遭難したばかり。
9月、10月と立て続けに、何人もの遭難者、死者がでた。
時代がいくら変わっても、山や海を愛する冒険家たちがいる。
日本国内での登山を含めて、2010年は多くの人たちの遭難死が多すぎたね。
鎮魂の意味を込めて、合掌します。
必ず生きて戻ってくること。
どんなに装備が近代化しても、実力と運のみの高所の登山。
ちょっと悲しいよね。
雪崩、墜落、滑落の危険はいつでもある。
無事に生きて戻ってきて欲しい。それだけが願いです。
呼んでないけどついに最終回かwおめで㌧(*´ω`)っ【゚.+゚.+:。おめでと~゚.+:。】