WW 後編
- カテゴリ:自作小説
- 2010/10/09 00:39:07
しばらくコミュニティではOCの話題で持ちきりだった。
精巧な容姿、自然な動き、既存のパーツを一切使用していないキャラクター。
OCの噂話を聞きながら彼女は、この世界でも自分が中心になれないことを実感した。
どうにかして、他のキャラクターよりも目立つ造形にしたし、頑張って友達の数も増やした。
他に人気のあるキャラクターが出てきたら、購入できるものである限り迷わず同じパーツを組み込んだ。
そうやって、コミュニティの中でも大きなグループを形成していった。
上には上がいたが、それでも満足のいく結果は得られた。
(つまらない)
現実がつまらないから、ここにいるというのに。
あんなOCを見た後では何もかもが色褪せて見えた。
自分が決して手の届かないものを見せ付けられた。
それでも、ここへ来てしまう。
他に居場所がないから。
そしてまた、今日もあのOCが彼女の前に現れた。
相変わらずこの世界では不自然な程に現実を模した動きで階段を降りてくる。
階段の上は噴水になっていて、ちょっとした人気スポットだ。
高台になっているので街がよく見渡せた。
今日のOCは青を基調にしたワンピース。
下に重ねた幾重ものパニエがふわふわと脚の動きに合わせて揺れている。
周りのキャラクター達が、見惚れるあまり微動だにしない様子に、やっと彼女も同じ状態だったことに気付く。
悔しさが彼女を動かした。
「ねえ あんた すごすぎ なんなの?」
この間は逃げられたので意識的にゆっくり近づき、階段の真下で待ち構える。
「何って?」
行く手をふさがれたOCが問いかけに答える。
「ここでなんでもできるきゃらくたーをつくって じまんしたいわけ?」
「彼方は自慢する為に、そこにいるの?」
切り替えされて逆上する。
「きいてるのはわたし!」
OCがすうっと目を細めて、一度瞬きしたかと思うと思いもかけないことを話し出した。
「彼方はこの世界に入り過ぎね。ここは夢と同じなのに、現実には何も持っていけないのに」
(!)
「ここでは何時までも綺麗な姿でいられるけど、現実の彼方は大人になる。でも、その様子だと、彼方は何も残せない側の人間になるのね」
淡々と諭すでもなく、事実のみを義務的な口調で続ける。
「蕾が全て咲ける訳ではないし、咲いた花が全て実る事もない。それがこの世の摂理だから、彼方の存在も否定はしない」
OCの言ってる事が理解はできなかったが馬鹿にされていることだけは直感した。
「なにわかったようなこといってんの!」
「彼方がこの世界に依存しているのは、データを参照すれば解るもの。夕方から明け方近くまで入り浸っている」
興味津々で見守っていたキャラクター達の中で幾人かが気付き始める。
とある噂と、OCの存在が繋がっていく。
誰かが問う。
「…アリス?」
名前を呼ばれたOCが、そちらを見遣りながら頷いた。
相変わらずの滑らかさで、長い髪を揺らしながら。
「ありす?」
なんてありきたりな名前だろう。
もっと凝った名前が幾らでも付けられるというのに。
せっかく日本語のコミュニティなのだからと、変わった難しい漢字を字数制限限界まで連ねた名前を持つ彼女は思う。
「君、本当にあのアリス?」
一人、また一人と近づいてくる。
自分ではなくOC目当てに、というのが気に入らない。
しかもかなりの有名人らしいのが、また気に食わない。
「あんた ゆうめいなの?」
「そうかも」
再び彼女に視線を戻しながらOCは膝を軽く曲げた。
そして一気に跳躍。
狭まりつつある輪を抜け出して、元の噴水のある広場へ着地した。
「私は何でも解るけど、個人を特定できる情報は言えないように規制されてるから安心してね」
そして、以前と同じように姿を消した。
その後。
アリスがOCではなく、この世界を管理するシステムが情報収集の為に動かしている独自のキャラクターだという話を耳にする。
ただ、誰も確証が得られた訳ではないので噂の域を超えないものだったが。
(だったら誰も敵いっこないじゃない)
最初から特別な存在なのだから。
だとしても、アリスに言われた事が頭から抜けずにいる。
何も残せない人間。
ここでしか居場所を見出せない人間。
今日も彼女はWWへログインする。
心に重たいものを抱えたままで。
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お終い
丁寧に前編にも後編にも感想くれて嬉しいw
面白かったなら、もっと嬉しい!
きっと、同じような人はいるだろうけどさ、Luck♪さんは忙しくてそんな暇ないよなw
俺もだけどw
んじゃ、次も書いたら感想ちょーだいw
依存しすぎるのはよくないねw
ここにも同じ感じになってる人が居そうな気がする。
適度にしとかないとね!