Nicotto Town



フェアリング・サーガ<1.1>

<from 1.1>

それはヴィンセントの新たな生活が始まってから数日が経過した日だった。

その日はシミュレーションでの模擬試験をパスしたヴィンセントが、仮ライセンスで初めてEVA実習を受ける日だった。

もっともヴィンセントは、既にEVAライセンス持っており、EVA業務自体何度もこなしたことがある。しかし、ごく最近まで地表にいたブランク期間があったこともあって、それを思い知らされた部分もあった。

EVAを行うためには、真空の宇宙空間に出るための装備を着用しなくてはならない。更衣室でEVAスーツを着用しているときにヴィンセントは不意に声をかけられた。

「お前ズバリ、ノアベータ・スペースシップ・カレッジにいたベルファインだろ」

それを耳にしたヴィンセントは一瞬、思考が停止した。ノアベータ、その響きを聴いたのは何年ぶりだろう。今は亡き自らの故郷の名を聴いたのは。

その響きは段々と大きくなり、ゾクゾクと震えとなってヴィンセントの中に浸透していく。

「そのリアクション。ビンゴだな。おれはカレッジの同じクラスにいたジルバ・ドラグノフだ。覚えてないかもしれないけど」差し出されたその手をヴィンセントは握った。「しっかしまぁ、よく生きてたなぁ!」

それが死んだはずのヴィンセントの同期生、ジルバ・ドラグノフとの再会だった。しかし、以前から直接的面識はなく、名乗ってくれなければヴィンセントには誰なのかわからなかっただろう。

申し訳ないとヴィンセントが告白すると、向こうも名簿を見て気がついたのだと言った。実際に会ってみるさっきまで確信はなかった。とも。

「しっかし、どうやってここに。ノアベータはほとんど全滅だと思ったけど」

ジルバは自身のEVAスーツを着る。

救助されたのだと答えると、ジルバは、お前もか、と言った。

「あのとき助けられたのは、俺だけじゃあなかったしな」

完全気密スイッチを入れると、スマート繊維が収縮し、だぼだぼだったEVAスーツはピッタリなサイズに収まった。

「他にもいるの!」

ヴィンセントは驚き振り返る。ヴァリスからは、おまえ以外の生存者はいないと聞かされていた。

もしかしたら、自分の家族も。と、考えずにはいられない。

「まあ、知った口はニアってやつだけだけど…」ジルバは、ヴィンセントの表情からその期待を読み取ったのだろう、申し訳なさそうに答えた。「もともと俺は、ノアベータには、グルニアからの留学で来てたからな。知ってるやつは同期のやつくらいのもんだ」

「そうか。でもきみが助かっているなら、望みはあるよ。ところで、ニアと言う人は」

「ニア・シルフィール。おまえは知らないかも知れないけど、カレッジにいたころに今期からうちの科に編入してきたやつだよ。俺もたまたま知ってただけだけだからそれ以上は知らない」

「その人は今どこに」

「このスクールにいるよ。もっとも、俺より前からいるみたいで、受けてる講義や実習の内容が違うから、全くバッティングしないけど」

「じゃあ、住所は調べればわかるか」

「会うつもりなのか」

「もちろん。訓練が終わり次第調べてみるつもりだよ。きみは?」

「わかった。着いていく」

ジルバはあまり気乗りしないようだったが、そう答えた。

「じゃあ。訓練が終わったら」

ヴィンセントはヘルメットバイザを下ろし、気密スイッチをオン。

バイザに表示されるステータスインジケーターでスーツの気密状態が保たれていることを確認した。

バイザに表示されるステータスインジケーターでスーツの気密状態が保たれていることを確認した。

実習生は皆、無重力の減圧室内で、手すりやフットバーに足をかけるなどして所定の位置で待機していた。
時間となり入り口が閉じられ、『減圧を開始します』とアナウンスが流れる。アラームが鳴り、照明が自然光から赤色灯へと変わった。
減圧開始。
バイザに外圧変化の警告表示が現れ、外界圧力インジケータの値は降下していく。そのシークエンスに乗じてバカな行動をとるものはどこにでもいるようだ。何やら問答するようなジェスチャーしている者がいる。

数十秒で、宇宙空間と同じ真空状態に。減圧室内の照明が元に戻り、EVAの通用ハッチが開く。

まずは教官が外へ。その後、待機する教官のところへ順々にゆっくりと飛び出してゆく。これがEVA教習の基本動作だ。

あとは、離脱防止用の命綱を、所定の固定位置で固定し、作業することになる。

ヴィンセントとジルバはそこで別れた。

ヴィンセントは教習初日。命綱をつけて、無重力空間を体感すべく、ルカ・ファンデーションの区画を接合するターミナル・シャフト表面を漂うだけだ。

一方、ジルバは姿勢制御用バックパックまで背負い、飛翔訓練まで行うようだ。推進剤を噴射し、シャフトにそって待機位置へと向かって飛び去った。

見れば、慣れない生徒が、バランスを崩して回転を始めたり、加減を誤って放り出されて飛んで行ったりしている。慣れてしまえば、どうということのない動作だが、慣れぬ者にはなかなか難しのだ。

<to be continued>

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2010/10/07 18:18
今回の舞台は、植民惑星?



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