Nicotto Town


人生カカト落とし


『・・・・・絶句』がなくて絶句する

新井素子の『・・・・・絶句』が再刊されているのを書店で目にして、久方ぶりに読むか~、と書棚に手を伸ばしたら、

なかった。

最初に出た判型のソフトカバー、突っ込んであるとおもっていた場所には入っていなかった。
参照率の高い本――古典とかノンフィクションとかがまず一番手にとりやすい場所にあり、再読可能性が高そうなほど比較的いい位置に、で、エンターテインメント色が強いと割と奥……という配置になっていた。
そのうえで、引っ越してから買った書棚のせいで、文庫本の方がやや収納・検索しやすい状況にある。

結果、目当ての本はものすご~く手にとりづらい場所に入り込んでいるらしいのだ。

最近、ライトノベル周辺についてあれこれ書いてみたいな~、と考えている。
そうすると、ジャンルの来歴とか形成についてで新井素子には言及(が必要だと思う)ので、どうしようかと困惑している。

徹底して片付けるべきなんだろうが、やり始めると、決着がつくまでに多分数ヶ月はかかる。
日常生活が立ち行かない。

取捨選択に迷ううち、莫迦ばかしく時間を消費しそうだ。
再読するか? 参照するか? もともと見切るのがヘタな上に、今時本はすぐ絶版・入手困難になる。
思い立って手に取れないのでは、意味がない、とは思うのだけど、ねぇ……


ええと、まあそんなこんなで、当の本は現在手許にないのだが。

「ライトノベル」なるものを定義するなら、まずは出版社の売り方が先に立つのだろうが、内容を問題にするなら「小説以外のジャンル(特に漫画・アニメなどの映像ジャンル)のお約束を適用した小説」ではないかと思う。

そういう意味での漫画にあり得るような若い世代の意識を写した文体、そして時に漫画的なキャラ立ちの小説を、「ライトノベル」なんて言葉を想像さえしなかったような時期に、自身のものとして書いたのが新井素子だった。

馴染めないという人もいる文体は、しかし初期から作者の結婚くらいまでは多分、当時の中高生女子の心中のつぶやきに近い口調で、勢いにのって物語を進行させていた。 
その後、長年の読者もふくめ文体への抵抗を言及するようになったが、作者が大人になり、文体と心中の語調に齟齬が生じたからだろう。

その頃までの新井素子は「『面白いお話』の語り手」として並外れた勢いを持っていたと思う。

『……絶句』は、そんないちばん脂の乗った時期に書かれた、多分作者の最も面白い「お話」、キャラクターノベルだろう。
(この作者の「小説」のベストは、こちらがSF読みなせいもあり「ネプチューン」か「今はもういないあたしへ」だと思っている)

楽屋落ち、という評もある。無理もないのかもしれない。

作家志望の女子大生・新井素子は、読者が絶句するほど面白い小説を書きたい、と『絶句』という題の小説を書いていたが、突如その登場人物たちが実体化してしまう。
キャラクターたちはそれぞれに現実で生活を始めるが、それは、素子を巻き込んではじまる地球規模の大騒動の始まりだった……


なにせ、主人公が「新井素子」だ。
(もっとも作者は高校生で作家デビューしているため、それを知る読者には「作家志望の女子大生」という時点で、作中の「新井素子」は「作者と似たところがあるキャラクター」だと切り分けられるのだが)
登場人物は、実体化した作中人物は女子大生の「あたしの考えた最強キャラ」なのでチート的な強さで、その上まっとうにお利口な「小説」なら禁じ手みたいな構成・展開・出来事てんこ盛りだ。

だが、個性の強いキャラクターたち(拓ちゃんなんか「男の娘」のはしり?)が縦横無尽に活躍し、荒唐無稽な物語を文体の勢いに乗って「あり」にする、そのなかで言いたいことはキッチリ主張する、しかし徹底したエンターテインメントだ。

ライトノベルという呼称もなかったころに生まれた、その嚆矢のひとつだろう作品。
そのテのものが好きで未読な方、お薦めです。

しかし、ラノベに疲れ気味、と言いつつも、最近ラノベ絡みの文章が多い。
本当は、けったいなもの、お行儀の悪いもの、横紙破りなもの……が好きなのだけど、なんだかなぁ。

アバター
2010/10/01 00:50
まりえるさん
今度の表紙は四コマ漫画『今日の早川さん』のCOCOさんです。
どちらにしても時代の主流ではない気がしますね〜

山鳥さん
「小説」を意図した話の地の文が空回ってることが多い気がします。
読者への配慮で軽くしようとする部分と、ご本人との間に隙間があるのじゃないかなぁ、と。

くまごろうさん
単行本だったので『星へ行く船』あたりより読んでる人は少ないですけど、間違いなく作者の代表作のひとつだなぁ、と思います。

秋津丸さん
うちでは多分、洋服用引き出しボックスに詰めて数段ずつスチールラックに載っけてある(あまり重ねるとひわって開かなくなるので)一群の中にあるかと。
ただその前に本が積み上がってて、引き出しが開けられません。
お互い頑張って片付けましょう(言いつつ顔が引きつってたりw)。
アバター
2010/09/30 01:15
その頃の本って、ほとんどが段ボールの中。

日の目を見ることがあるのやら(--;)
アバター
2010/09/28 10:15
新井素子、懐かしいです^^
『・・・・・絶句』は読んだことなかったから、
久しぶりに書店を覗いてみようかな・・・♪
アバター
2010/09/28 07:24
懐かしいなぁ

>作者が大人になり、文体と心中の語調に齟齬が生じたから

そうかも?とも思う
でも、文体に違和感を感じない話もあるんだよね
不協和する話と文体がしっくりと馴染んでいる話って
どうちがうのかな
アバター
2010/09/28 04:38
ソフトカバーの表紙、あずまひでおでしたねぇ
私も押入れの箱のどれかにはいっているはずw



Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.