春谷探偵物語 第1巻「序章~始まりは殺人~」26
- カテゴリ:自作小説
- 2010/09/21 00:35:41
「スイマセンが、もう一度名前と職業をお聞かせ願えませんか?」
宮津署に到着し部屋に案内されてすぐ、刑事は二人に問いかけた。
「僕は小田 信二、25歳です。 フリーのカメラマンをしています。」
彼は名前を名乗り、鞄から名刺を取り出して刑事に渡した。
「東京にお住まいですか・・・。 そちらの彼女の方もお願いします。」
「私は太田 陽子と言います。同じく25歳です。 ダイビングのインストラクターをしています。」
彼女も名刺を渡して言った。
「貴女も東京にお住まいですか・・・。 なるほど、分かりました。」
酒井と名乗る刑事は記録用紙に二人の名前と職業を記載した。
「お二人は、どういうご関係ですか?」
「彼女は私の恋人です・・・。」
と、小田は嘘を言った。しかし、彼はそれを信じたようだ。
「と言うことは、婚前旅行か何かですか? いや、羨ましい限りですね・・・。」
刑事は笑いながら記録用紙に記載した。
「殺害された人と、面識か何かありますか?」
「いいえ、ありません。」
小田は首を振って答える。彼女も同じく首を振る。
「そうですか・・・。 観光の最中に、こういう事件に出くわして大変でしょうけど、もう少しお付き合い下さいね・・・。」
「分かりました。刑事さん。」
彼がそう言うと、刑事は少し怪訝な表情を見せて言った。
「おや、言って無かったですね・・・。私、警部なんですよ・・・。 まあ、どうでも良い事ですけど・・・。」
「あっ・・・・。 スイマセンでした・・・。」
小田はバツが悪そうに頭を掻いて俯いた。
「所で、倒れたいた女性の方はどうですか? 知っている人ですか?」
「いいえ・・・。彼女も知らない人ですわ。」
太田は首を振って答える。小田もすぐに首を振る。
「ふむー・・・。 全くの他人ですか・・・。」
「殺された人の状況はどうだったんですか?」
逆に小田が警部に聞き返した。彼はメモを見ながら答える。
「まだ、何とも言いようがありませんが・・・。 胸部をナイフの様な物で一突き。まあ、恐らく即死の状態でしょう。人体の構造を知っている人物の犯行でしょうな。」
「そういう時って、出血はするんでしょうか? 僕が抱きかかえた時、既に出血はしていなかったんで・・・。」
「状態にもよりますがね。 犯行後、ナイフを抜けば出血はしますけど、そのままの状態であれば、筋肉は萎縮しますから、かえって出血しないものなんですよ。 恐らく死因は、出血性ショック死でしょうね。 ご年配の方でしたから・・・。」
「だから、血が付かなかったんですね・・・。」
「恐らく、犯人にも返り血は付いてないと思います。 それ程、正確な一撃を加えていますね。 まあ、詳しい事は解剖してみないと分かりませんが・・・。」
「あのー・・・。 ドラマとかである、死亡推定時刻って言うのは分かりますか?」
小田が質問ばかりしてくるので、彼は笑って答える。
「貴方も変わったお人ですね・・・。 これじゃ、どっちが調査してるのか分かったもんじゃない・・・。 死亡推定時刻ね・・・。まだハッキリとは言えないんですが。死後硬直が始まって直ぐの状態だったんで、恐らくあなた方が発見する30分程前だと思います。まだ体が暖かかったですから・・・。」
そういや、抱いた時にまだ少し暖かかったな。と小田は思いながら、時間を思い出していた。
「その時だったら、私たちが天橋立駅に着いた頃じゃない?」
「そうだね。 僕もそう思うよ。」
「お二人は、今日こちらへ来られたんですか?」
「ええ。急行の丹後1号で、京都から・・・。まあ、正確には岡山からですけど・・・。」
小田は思い出しながらそう言った。
「岡山? また遠い所から来ましたね・・・。」
「仕事で岡山に滞在していたんですよ。」
「なるほど。 旅行は仕事のついでですか・・・。 どうも、ご協力有り難うございました。所で、今日のお泊まりは?」
酒井は記録書を閉じながら二人に聞いた。二人は顔を見合わせる。
「実は、まだ何処も予約していないんですよ。 こっちに来るのが突然だったものですから・・・。」
「じゃ、橋立ホテルにしなさい。 連絡を入れて置くから。 相模、お二人をホテルまでご案内して・・・。」
「いやいや、結構ですよ。」
小田は両手を振って断ったが、彼のしつこい責めに折れ、パトカーでホテルまで向かった。



























