「青春地獄篇」3
- カテゴリ:日記
- 2010/09/20 03:45:16
二、
義母(はは)と義妹(いもうと)がこの家に来てから、幾日かが瞬く間に過ぎ去り、四人家族になって初めて、大晦日を迎えた日の夕方のことであった。
昼間から、家には義母と私の二人しかいなかった。夕方の五時ごろになっても、義妹は帰って来ない。夕方といっても外は闇だ。父もまた仕事納めとあって、大晦日であるにもかかわらず多忙で、何時に戻ってくるのか、私にも分からなかった。
私は時間を確認すると、六法全書を閉じて、喉の渇きを癒すために階下に降りた。
いつもなら、家政婦の晴子が、私の姿を見ると直ぐにコーヒーを入れてくれるのだが、その晴子は昨日の夜、夜行で郷里に珍しく帰ってしまっていた。
義母は私に気がつくと、編み物する手を休めて台所に立った。私は義母が座っている前の、ソファーに腰掛けた。
「真理子さん、まだ帰って来てないんですね」
居間に再び入ってきた義母に、私は言った。
「なんだか友だちに会うとか言って出かけたようだけど、六時には戻ってくるそうだから、いま何時かしら」
「五時です」
「あら、それならあと一時間ほどで帰ってくるわね」
私は窓の方に目を向けた。
冬の日暮れは早い。夏場なら、日はまだ西に傾きはじめた頃だ。外は黄昏の薄明の世界から、みるみるうちに、漆黒の世界へと変わっていく。
今年最後の夜が迫っていた。
友だちと会っている、という義母の言葉に、私はあることを思いだした。機会があれば、いずれ義母に訊こうと思っていたことである。
「真理子さんは大学進学どうするんでしょう。願書も出していないようだし、といって、特に就職活動もしていなかったみたいですから。やはり浪人するのかな」
私には中退という言葉を選択できなかった。
「さあ、私にも解りませんわ。あの子はちょっと変わった子なんですよ。以前、薬剤師になりたいなんて私に言ってましたけど、今ではその気もないみたいですし・・・・・・。つい最近も、私はアルバイトをして、お金を貯めてから学校に行くんだとか言ってたから、結局一年棒に振るんじゃないのかしら。困りましたわね」真理子は中退していた。義母は苦笑した。
「その友だちとかいう人に、相談でもしているのではないのですか」
「そうだといいんですけど・・・・・・」
私は本気で心配していた。
真理子は、私と同様に、人生を選択しなければならない重要な時期にさしかかっている筈であった。赤の他人ならば少しも心配などしないが、妹になった以上、兄としての気持をもって接するべきだという自覚が、私に芽生えていた。